NEDOとノベルクリスタルテクノロジーは、「世界初」となるアンペア級・1200V耐圧の「酸化ガリウムショットキーバリアダイオード(SBD)」を開発したと発表した。今後は製造プロセスの確立と信頼性評価を進めて、2023年の製品化を目指す。
ノベルクリスタルテクノロジーとNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は2021年12月24日、「世界初」(ニュースリリースより)となるアンペア級・1200V耐圧の「酸化ガリウムショットキーバリアダイオード(SBD)」を開発したと発表した。今後は製造プロセスの確立と信頼性評価を進めて、2023年の製品化を目指す。まずは、さらなる高電圧化、大電力化が求められている次世代急速充電器などのアプリケーションへの適用が期待されるという。
酸化ガリウム(β-Ga2O3)は、次世代パワーデバイスとして機器への採用が始まっている炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)と比べて、優れた材料物性や低コストの結晶成長方法を特徴としており、低損失かつ低コストのパワーデバイスを製造できる。家電、EV(電気自動車)、鉄道車両、産業用機器、太陽光発電、風力発電など、さまざまなパワーエレクトロニクス機器において、搭載する電気機器の小型化や高効率化につながることから、国内外の企業と研究機関における研究開発が加速している。
これまでβ-Ga2O3SBDの大電流化開発では、プロセスが比較的容易なプレーナ型構造が用いられてきた。しかし、プレーナ型SBDはリーク電流が大きいこともあって、耐圧1200VのGa2O3SBDを作製するのは困難だった。この課題に対してノベルクリスタルテクノロジーは、2017年に逆方向リーク電流を1000分の1に低減するトレンチ型Ga2O3SBDの原理実証に成功し、その耐圧向上と大電流化を進めてきた。
今回、研究試作ラインとファウンドリーの併用によって、2インチ(50mm)ウエハー量産対応プロセスを開発するとともに、順方向電圧(VF)が2Vのときに順方向電流(IF)が2A、耐圧1200V、低リーク電流<10−9Aのトレンチ型β-Ga2O3SBDの試作に成功した。これによって、現在進めている4インチ(100mm)ファウンドリーラインを用いた量産プロセスの開発と、実装回路レベルでの1200V耐圧のβ-Ga2O3SBDの性能/信頼性評価が可能となり、低損失β-Ga2O3パワーデバイスの製品化を大きく進められるという。
ノベルクリスタルテクノロジーの母体企業であるタムラ製作所は、NEDOの2011〜2013年度プロジェクトである「省エネルギー革新技術開発事業/超高耐圧酸化ガリウムパワーデバイスの研究開発」の成果を活用して、2015年に世界初となるパワーデバイス向けのβ-Ga2O3エピウエハーの開発に成功した。
その後、タムラ製作所と情報通信研究機構(NICT)、東京農工大学のメンバーを中心にカーブアウトする形で2015年にノベルクリスタルテクノロジーが発足。2018年度からは、NEDOの助成事業である「戦略的省エネルギー技術革新プログラム/アンペア級酸化ガリウムパワーデバイスの開発」、2020年度からは同じくNEDOの「戦略的省エネルギー技術革新プログラム/β-Ga2O3ショットキーバリアダイオードの製品化開発」の下でβ-Ga2O3SBDの開発に取り組んできた。
β-Ga2O3SBDが含まれる中高耐圧高速ダイオードの市場規模は、2022年には1200億円に、2030年には1500億円に拡大していくことが予測されている。
なお、今回の開発成果は、2021年12月15日に応用物理学会発行の学術誌「Applied Physics Express」のオンライン版に掲載された。
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