実際、これらの検討を経て、製品に採用されることになったヒンジ部の新形状を見てみると、中央部分に穴が設けられていることが分かる。当然、穴がない方が横方向の力に対してより強くなるはずだが、あえて穴を設けることで剛性と弾き心地のバランスをとっているのだという。また、ヒンジ形状の見直しにより、従来必要だったガイド機構とグリスが不要となり、鍵盤構造の作りやすさを格段に向上させている。
ちなみに、新たな鍵盤構造にもガイド機構のような突起があるが、これは落下などの異常荷重に対する補強として念のため入れてあるものだ。
新たなヒンジ形状の検討においては、やはり、3D CADとCAEツールの行き来で設計案を効率的に絞り込めた効果は大きく、「設計メンバーとアイデアを出し合いながら、1カ月程度の間に十数パターンもの設計案をCAEで試し、解析結果に基づき、その中から有力な候補を絞ることができた。実際に試作した数もわずかで済み、金型製作もほぼ一発で進めることができた」(赤石氏)。経験や勘だけでなく、その設計案が正しい方向性のものなのかをCAEでしっかりと確認しながら進められたからこそ、こうしたサイクルを実現できたといえる。
また、今回の取り組みの手応えについて、遠藤氏は「最終的なヒンジ形状による解析結果と、実際に出来上がった実機による試験結果を比べてみても、動きとして大きな差は見られず、CAEを活用した手法が十分に使えるものであることを確認できた。ひとまず構造的にシンプルな電子キーボードで結果が出せたので、将来的にはより構造が複雑な電子ピアノの鍵盤構造の改善にも同様のアプローチを適用していきたい」と述べる。
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