プラント内の送電ロスを95%削減、三相同軸型超電導ケーブルシステムが実用化へ : 脱炭素 (2/2 ページ)
この三相同軸型超電導ケーブルシステムを、実プラントであるBASFジャパンの戸塚工場に導入した。今回の実証試験では、プラントの既存設備を利用する必要があったことから、構内の既設ラック(高さ5m)上にケーブルを設置するなど構内経路に沿って敷設した。そのため、一般的な超電導ケーブルの敷設では想定されない屈曲部を4カ所(屈曲角度で90度、曲げ半径で1.5m)設ける必要があったが、ケーブルの柔軟性により問題なく敷設できた。コンパクトなケーブルは、屈曲部などで液体窒素の流路が狭くなるが、今回の実証試験では長距離(往復約400m)でも問題なく液体窒素を流すことができ、複雑なプラントレイアウトにも対応できることが確認できたという。
BASFジャパン戸塚工場に敷設した三相同軸型超電導ケーブルシステム[クリックで拡大] 出所:昭和電線ケーブルシステム
今回の実証試験の結果を基に、冷媒貯蔵設備を既存で有する30MW以上の大規模電力利用プラント内に長さ1000mの三相同軸型超電導ケーブルを敷設した場合に、従来の常電導ケーブルと比べて得られる省エネ効果も推定した。3000Aの三相交流電流を通電して1年間に生じる送電損失を比較すると、常電導ケーブルを三相同軸型超電導ケーブルに置き換えることで電力損失量を95%削減できる。これは、原油換算の年間省エネルギー量で110kl(リットル)に相当する。
三相同軸型超電導ケーブルシステムの導入による省エネ効果[クリックで拡大] 出所:昭和電線ケーブルシステム
実証試験は約1年間にわたり無事故で電力供給を行い、酷暑となる盛夏期でも安定した液体窒素の循環を確認できた。一般的な液体窒素ポンプは数カ月に一度の分解整備が必要だが、開発したサブ冷却システムのポンプは約1年間、メンテナンスフリーによる運転を達成した。これにより、ポンプのメンテナンスをプラントの定期点検に合わせて実施できることになり、高い実用性が証明できたとしている。併せて、開発した監視システムで実証試験期間を通して常時監視を行い、その有効性も確認した。これにより、無人の監視体制も導入可能になるという。
今回の実証試験により、冷媒貯蔵設備を既に有する大規模電力利用プラントに三相同軸型超電導ケーブルシステムを適用することで大きな省エネ効果が見込めることを確認できた。そのために行う初期投資についても、電力利用量が30MW以上であれば10年以内に回収可能である。冷媒貯蔵設備を有する30MW以上の大規模電力利用プラントは、国内に420回線(約190事業所)あるという。
開発した三相同軸型超電導ケーブルシステムがターゲットとする市場[クリックで拡大] 出所:昭和電線ケーブルシステム
昭和電線ホールディングス 社長 グループCEOの長谷川隆代氏は「国内の送配電網における送電ロスは5%程度といわれており年間で480億kWhに及ぶ。これは100MWクラスの原発5基分に当たる発電量だ。超電導ケーブルはこの送電ロスは大幅に削減する可能性を秘めており、脱炭素に大きく貢献できる。今回の実証試験で三相同軸型超電導ケーブルシステムが、計算できる技術、設計できる技術であることを確認できた。今後は、顧客と協力しながら電力利用量30MWクラスのプラントでの実証を進め、技術をブラッシュアップさせていきたい」と述べている。
⇒その他の「脱炭素」の記事はこちら
いまさら聞けない「CO2ゼロ工場」
「カーボンニュートラル化」が注目を集める中、製造業にとっては工場の「実質的CO2排出ゼロ化」が大きなポイントとなります。本稿では「CO2ゼロ工場」のポイントと実現に向けてどういうことを行うのかを簡単に分かりやすく紹介します。
脱炭素実現の鍵を握る「スコープ3」、排出量見える化のハードルは高い?
脱炭素化に向けた各種施策を実行する企業が増えている。ただ製造業ではこれまでにも環境負荷軽減のための取り組みをさまざまに展開してきた。+αの一手として何を打つべきか。セールスフォース・ドットコムの鹿内健太郎氏に話を聞いた。
脱炭素向け事業を国内展開、シュナイダーエレクトリックが自社と顧客の知見生かし
ビルオートメーションやプロセスオートメーションなどのグローバル企業であるフランスのSchneider Electric(シュナイダーエレクトリック)は2021年11月4日、日本市場向けに脱炭素化に向けたサービス事業を開始することを発表した。脱炭素化に向けた包括的なコンサルティングを行うエナジーサステナビリティサービス事業部門を設立し、日本での展開を加速する。
トヨタとホンダでモータースポーツを脱炭素の実験場に、2022年から燃料でスタート
全日本スーパーフォーミュラ選手権を開催する日本レースプロモーションは2021年10月25日、サステナブルなモータースポーツ業界を目指したプロジェクト「SUPER FORMULA NEXT 50」を開始すると発表した。ホンダやトヨタ自動車がパートナーとして参加し、カーボンニュートラルに向けた実験的な技術開発や、新たな楽しみ方を提供するファン向けのデジタルプラットフォームの提供を進める。
日立が脱炭素に取り組むきっかけは「コロナ禍が生み出した青空」
日立 執行役副社長のアリステア・ドーマー氏は、2021年11月に開催される「COP2」に協賛する「プリンシパル・パートナー」に同社が就任したいきさつを説明。「2021年の世界的なイベントとして東京オリンピック・パラリンピックに次ぐ2番目の規模となるCOP26が、地球環境の保全に向けた解決案を見いだすことに貢献したい」と述べた。
村田製作所が工場に大規模蓄電池システムを導入、「自家消費型」再エネに本腰
村田製作所は、太陽光発電システムや同社製のリチウムイオン電池を用いた蓄電池システムを大規模に導入した生産子会社の金津村田製作所(福井県あわら市)を報道陣に公開。工場建屋や駐車場の屋根部にパネルを設置した太陽光発電システムの発電能力は638kW、北陸最大規模とする蓄電池システムの容量は913kWhに達する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.