次に、製品設計の構成を通してモデリングを考えてみたい。どのような製品を作りたいのか(目的、価値)、機能はどうするのか(機能、性能)、構造はどうするのか(構造、材料)、どうやって作るのか(生産、コスト)、顧客にどう訴えるのか(印象、使い勝手)などを、設計の最初の段階である程度決めておく必要がある。従って、図2の各項目がモデリングの対象となる。
すなわち、機能評価、構造評価という機械設計の骨格に加えて、そもそも何のために設計するのかということを明らかにして表現可能にするとともに、対象となる製品の顧客視点での印象評価も重要なモデリング対象となる。QFD(品質機能展開)、機能構造マップなどの手法も一種のモデリングと考えることができる。また、人(感性)を対象としたモデリングも重要な対象であるが、他のモデリング対象と比べて一般化が難しい。
続いて、事例を通してモデリングの方法と効果について考える。
QFDを用いた価値のモデリングについて、ある家電製品を例に説明する。図3に示すように、顧客の声が入力となる。顧客の声を機能(工学的指標)に展開し、各項目に重み付けを行う。さらに、機能を部品(構造)に展開し、同様に重み付けを行う。この一連のプロセスにより、顧客の声を各部品に対応付けることにより、各部品の価値を定義できる。そして、各部品のコストと価値を比較することにより、いわゆるCost Worth解析も可能とする。このように、価値、機能、構造といった一連の流れを可視化、評価可能とすることにより、製品開発全体をマクロに捉えることを可能とし、全体適正設計を実現する。図3の例は、記述モデルと解析モデル(Excelの掛け算と足し算だけではあるが)のハイブリッドモデルといえる。
コストのモデリングについて考える。例えば、製品のある部品を考えると、そのコストは一般には、図4の手順(式)で算出できる。すなわち、材料費、工具費、設備費、間接費を材料、生産数、償却期間などをパラメータに定式化して、解析可能としている。製品開発の初期段階を想定すると、この段階では材料、製造方法は選択可能な設計変数である。式自体は概算式であり、精度は高くないが、相対的な比較は可能である。ここでは、製造方法として鋳造を選択し、各種鋳造方法のコスト見積もりを行っている。この結果から、生産個数が少ない場合は砂型鋳造が、中くらいの場合は低圧鋳造が、多い場合には金型鋳造が向いていることが分かる。設計の最終段階で生産方法を考えるのではなく、設計の早い段階でこのように生産個数、生産方法を検討することにより、手戻りのないものづくりを実現、最終的には企業に利益をもたらす。また、コスト評価も設計の一つの重要なプロセスであり、このように分かりやすい式で表現できることは、エンジニアにコスト意識を植え付ける意味でも重要である。
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