デジタルツインを実現するCAEの真価

ボルトの緩み対策設計者向けCAEを使ったボルト締結部の設計(9)(3/5 ページ)

» 2021年11月16日 10時00分 公開

被締結物のクリープ変形による緩み

 被締結物がパッキンを挟んだフランジの場合や、電気配線の端子によくあることですが、樹脂製の絶縁物を挟んでいた場合などでは、パッキンや樹脂材のクリープ変形による応力緩和現象によって、ボルトの軸力が時間の経過とともに減少します。この対策について少し考察します。

 材料を引っ張ったときのクリープ現象は、一般的に図7のような挙動を示します。初期段階において急速に変形が進み、これを「1次クリープ」、次に変形速度が一定となる「2次クリープ」、そして最終段階の「3次クリープ」があるといわれています。今はボルトの緩みを議論しているので、圧縮のクリープ挙動を図8のように表現してみました。圧縮なので破断はありません。そして、厚さがゼロになることもないので、2次クリープの変形速度はだんだん低下するものと考えられます。

クリープ現象:引っ張り 図7 クリープ現象:引っ張り[クリックで拡大]
クリープ現象:圧縮 図8 クリープ現象:圧縮[クリックで拡大]

 被締結物のクリープ変形による緩みの対策は、増し締めとなります。増し締めの方法や時期を規定したJISはなく、「JIS B 2251 フランジ継手締付け方法」では、“4時間以上経過した後に増し締めすること”が述べられているだけです。各社経験に基づいて、独自の基準で実施しているようです。では、4時間後に増し締めしたらそれでよいのでしょうか。その4時間後に緩みが発生していないでしょうか。また、1年後はどうでしょうか……。少し不安になりますね。クリープ変形による緩みと、増し締め効果について考察してみました。

 クリープ変形による緩みがある場合、初期締め付けの後、ある一定時間後に緩みが生じ、増し締めすると初期締め付けよりも小さなトルク(例えば、定格トルクの70[%])でボルトが回ります。そして、定格トルクになるまで増し締めします。その後、ある一定時間後に同じ作業をすると、定格トルクの90[%]でボルトが回ったとします。そして、3回目の増し締め時には定格トルクの95[%]でボルトが回ったとしましょう。では、1年後にボルトのトルクは定格の何%まで低下しているでしょうか。

 ボルトが回るトルクの測定には、「戻しトルク法」「増し締めトルク法」「マーク法」がありますが、ここでは増し締めトルク法を採用します。つまり、増し締め時にボルトが回り始めるトルクを測定し、そのまま定格トルクまで回します。

 被締結物のクリープ挙動をモデル化します。「Maxwellモデル」と「Voigtモデル」が有名です。図9に示します。クリープ変形する対象物(被締結体)に作用する荷重を時間tの関数σ(t)[N]、被締結体の変位(つまり縮み量)をε(t)[m]とします。σとεが応力とひずみでなく、力と縮み量であることに注意してください。一般化Maxwellモデルや一般化Voigtモデルなどもありますが、問題を簡単にするためにMaxwellモデルを採用します。

MaxwellモデルとVoigtモデル 図9 MaxwellモデルとVoigtモデル[クリックで拡大]

 図9のEはばねです。ばね定数をE[N/m]として、荷重と変位は比例関係になります。c[N/(m/s)]は「ダッシュポット」と呼ばれ、ダッシュポットが生じる抵抗力は、変位の時間微分にcを掛けたものとなります。式で表すと式1となります。

式1 式1

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