戻り回転によらない緩みは、ボルトやナットが回転しないで、軸力が低下する現象です。戻り回転による緩み対策は、回らないようにすればいいだけだったのに対し、戻り回転によらない緩み対策はかなり厄介で、多くの緩み止め製品が無力なものとなり、その対策には工夫が必要です。戻り回転によらない緩みは、以下のように分類されます(参考文献[6][7])。
(1)初期緩み
接触面の微小に凹凸がつぶされて伸ばされていたボルトが少し縮む。これを「へたり」という。
(2)陥没緩み
ボルトの頭ないしはナットとの接触面の面圧が高過ぎて、接触面が塑性変形する。金属なら締め付け時に塑性変形が終了していて問題ないが、被締結体が樹脂や高温の金属(絶対温度で融点の半分以上)の場合は、時間の経過とともに陥没が進む。
(3)過大外力による緩み
ボルトに降伏応力以上の応力が作用することでボルトが塑性変形して軸力が低下する。
(4)熱的要因による緩み
ボルトと被締結体の材質が異なり、温度変化による膨張量が異なることによる緩み。
(5)被締結物のクリープ変形による緩み
被締結物が非金属材料(ガスケット、樹脂)であったり、塗装膜があったり、締結時によく清掃されておらずゴミや付着物を挟んで締結してしまったりした場合、被締結物がクリープ現象により応力緩和を起こし、ボルトの軸力が低下する。
(1)(2)に対しては、連載第7回の「設計者CAEモデルでの安全率の考え方」で述べたように、設計時のボルト軸力を本来発揮する軸力からマージン分を差し引くことで対処できます。20[%]くらいでしょうか。材質にもよるので、一度締め付けて1日後に増し締めして、増し締め時のトルクが初日のトルクよりどれだけ減っていたかを測定することで、初期緩みによる軸力低下量が求まります。
戻り回転によらない緩みの分類(3)(4)については割愛します。分類(1)(2)(5)の対策としては、「ばね座金」がよく使われています。この効果について考察しましょう。
ボルトが少しだけ緩んだとき、ばね座金はどれくらいの軸力を保持しているか、設計者CAEで調べてみましょう。図3に締結されたときと、少しだけ緩んだときのばね座金の形状を示します。締結されたときの軸力は1万7079[N]とします。これはM10で、摩擦係数が0.1[-]、締め付けトルクが24.5[Nm]のときの値です。
少し緩んだときのばね座金が発生する力は、ばね座金を図4のように変形させたときの反力として求まります。反力は424[N]となりました。締結されたときは1万7079[N]の軸力が発生していたのですが、少しでも緩んだら軸力が約40分の1に減少してしまいます。ばね座金は、戻り回転によらない緩み対策にはならないように思えます。
では、「皿ばね座金」ではどうでしょうか。図5に締結されたときと、少しだけ緩んだときの皿ばね座金の形状を示します。皿ばね座金は、1種重荷重用(一般ボルト用)です。ばね座金のときと同様の手順で反力を求めました。図6に変形図を示します。反力は1万4204[N]と、初期締結時に対して17[%]の減少です。この17[%]を設計マージンに考慮しておけば、皿ばね座金による戻り回転によらない緩み対策はかなり期待できます。表1に軸力をまとめておきました。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.