現在、「製造業のDX」という言葉を多くのメディアで見かけるが、その意味は三者三様である。大きく分けて、その意味には次の3つの方向性があると考えられる。
一部の部品メーカー同士で既に行われている大規模化は、「2.ある業務における、協力会社とシステムの連携化」「3.異業種と協業することによる業態の拡張化」に当てはまり、「1.IoTやロボット、5G、AI(人工知能)などを駆使した社内業務の効率化」も各部品メーカーが独自に進めている。しかし、資金がネックとなり導入が遅れている現状がある。
日本でも優秀な企業は、以前からこれらのDXを推進している。例えば、ラクスルでは、仕事の減った複数の印刷工場にある非稼働の印刷機をひとくくりにまとめ(=連携化)、その印刷機で安く印刷を行っている。色やサイズの異なる少数の印刷物であっても効率良く印刷機を選定し、また異なる用紙サイズを大きなシート状の紙に効率良く配置できるソフトウェアを開発して(=効率化)、さらなるコスト低減を図っている。
さらに、キーエンスでは、営業担当の持っている顧客情報を企画担当が参照して企画を立てられる社内システムを構築(=効率化)し、顧客要望をタイムリーに反映できる商品企画を行っていると聞く。
昨今「『モノ』から『コト』へ」という言葉を聞く。これは決してモノづくりの時代は終わって、「コト」=「サービス業」の時代になってきたという意味ではない。
例えば、自動車業界を考えてみる。顧客はディーラーに行って、店員のアドバイスを参考にして新車を選び、購入する。納車された後は、損害保険に加入してクルマに乗る。走行距離が増え、3年後には最初の車検がある。そして、さらにクルマに乗り、事故を起こして修理をするかもしれない。クルマを購入してから数年すると、新しいモデルへの買い替えの案内がディーラーから届き、新車に買い替えることもある。この「新車購入⇒損害保険加入(更新)⇒クルマに乗る⇒車検⇒修理⇒新車購入」が簡単なクルマのライフサイクルである。
このライフサイクルにDXを導入すると、図5のようになる。自動車会社が損害保険会社と協業し(=拡張化)、修理情報を取得する。クルマの走行情報をIoTで取得し(=効率化)、買い替えの時期を把握する。自動車会社は自社のディーラーの車検部門と連携し(=連携化)、クルマの整備情報を取得する。そして、修理情報や走行情報、整備情報を得て、新車開発と顧客が買い替える次のクルマの提案に役立てるのだ。このようなDX化を行うことによって、顧客目線の新車開発が可能になるとともに、次の新車購入をより適切な時期に、より適切な車種を顧客に勧めることができるのである。
つまり、自動車のモノづくりが、単なるクルマの製造と販売だけではなく、そのライフサイクルの過程で顧客と「コト」の接点を持つことによって、より顧客目線でビジネスを行うことができる。これが「『モノ』から『コト』へ」の真の意味である。より正確に表現すると「『モノ』の販売から始め、『コト』のサービスを提供し、『次のモノ』の販売につなげる」となる。顧客も「モノ」だけを見て購入を決めるのではなく、「コト」を含めた全体を見て購入を決めていく時代になってきているということだ。
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