日本精工が転がり軸受の保持器にバイオプラスチック採用、CO2排出量を90%削減材料技術

日本精工は2021年9月27日、転がり軸受向けに植物由来の樹脂(バイオマスプラスチック)を採用した保持器を開発したと発表した。

» 2021年09月28日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 日本精工は2021年9月27日、転がり軸受向けに植物由来の樹脂(バイオマスプラスチック)を採用した保持器を開発したと発表した。

 保持器は樹脂化が進んでいるが、一般的に保持器に使用するPA66(ポリアミド66、ナイロン66)と比べて植物由来の樹脂を採用した保持器は、CO2排出量を90%削減する(従来比5.9kg減)。PA66から置き換えることにより、製品のライフサイクルとして年間5000トンのCO2削減効果があるという。材料コストとしては1.5〜2倍高くなる。保持器や軸受としての製造コストは微増だとしている。

 供給不足が長期化するPA66と異なる製造方法の樹脂を採用することで、安定調達につなげる狙いもある。開発した保持器は、足回りやハブ、ドライブトレイン、駆動用モーターなど車載用や、エアコンのファンモーターなど家電用の軸受で2022年に適用することを目指す。

 日本精工に植物由来の樹脂を供給するのはDSMで、「EcoPaXX B-MB PA410」が採用される。植物由来の材料を使用した転がり軸受用保持器は「世界初」(DSM)だという。また、120℃までの耐熱性を持った植物由来の樹脂製の保持器も「世界初」(日本精工)だとしている。

採用した植物由来の樹脂の性能(クリックして拡大) 出典:日本精工

新材料を採用しながら開発期間を大幅短縮

 転がり軸受の保持器は、樹脂化することで軽量化や射出成形による形状の自由度向上、製造コスト削減などのメリットが得られるが、金属製と比べて耐熱性や機械強度が劣り、遠心力で変形してしまう課題があった。そのため、耐熱性や強度が高いエンジニアリングプラスチックのPA66が標準的な材料として使われてきた。

 日本精工が使用するEcoPaXXは、植物由来の樹脂としては耐熱性や強度が高く、PA66にも匹敵することから採用を決めた(なお、従来の植物由来の樹脂では耐熱性や強度がPA66の8割程度にとどまる)。しかし、材料としての性能だけで採用するのではなく、保持器に採用した場合の性能の評価も必要だった。

 通常、新たに保持器を開発する場合は2〜3年かかる。今回、樹脂流動解析の活用や、軸受の高速回転試験中の状態を可視化したことによって開発期間を約1年に短縮した。

樹脂流動解析の導入や保持器の変形の評価を通じて開発期間を短縮した(クリックして拡大) 出典:日本精工

 樹脂流動解析では、金型内の樹脂の流れ方と成形時の品質(強度、寸法、形状や変形、成形不良)の予測によって成形条件を適正化し、実際の製造でも樹脂の流れをスムーズにすることができた。これまでは試作と寸法や形状の測定を繰り返すことで成形条件を探っていたため、大幅に効率化が図れた。また、従来と同等の品質の保持器を試作することができ、材料変更に伴う成形不良も防止できたという。

 これまでにも、高速回転による保持器の変形をFEM解析で予測する評価や、高速回転試験が終了した後の保持器の観察は行われてきた。今回、高速カメラによって試験機で回転する軸受けの内部を撮影。動画の1コマ1コマの画像の角度を調整し、保持器が回転(公転)していないように見える動画に編集し、保持器が変形するまでの様子を観察できるようにした。

 こうした評価の結果、EcoPaXXは最大2万回転、120℃の環境下でも、遠心力がかかった状態での変形量がPA66と同等であることが分かった。今回は材料変更のみで形状は変更していない。形状変更による材料の使いこなしの可能性も検討していく。

栄養成分表示のようにCO2排出量の表示を

 日本精工では製品の使用や廃棄、熱処理工程の効率向上など製造工程や工場の建屋の断熱、原材料のそれぞれでCO2排出削減を進め、2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目指している。

日本精工が取り組むCO2排出削減

 今回の開発技術は、CO2排出量の少ない材料を使いこなす取り組みとなる。バイオマスプラスチックの原料となる植物がCO2を吸収して成長するため、使用後の焼却処分で発生するCO2を相殺できる。EcoPaXXを採用した転がり軸受の保持器は、CO2排出量が材料のライフサイクルの面で2.4kg減、製造工程で3.5kg減となる。今回採用した植物由来の樹脂材料を使った製品は、カーボンニュートラルを目指す取引先に向けては積極的に提案していく考えだ。

 また、将来は、食品のパッケージにある栄養成分表示のようにどの部品でどの程度CO2を排出した製品であるか、従来比でCO2排出をどれだけ削減したかを示せるようにしたいという。

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