このEVERINGの決済機能とセキュリティを実現するためのソリューションを提供したのがタレスジャパンだ。フランスのタレス(Thales)の日本法人であるタレスジャパンだが、日本国内でのビジネスをスタートしたのは1970年からと50年以上の歴史がある。タレスジャパン 社長のシリル・デュポン氏は「当初は、海上自衛隊や陸上自衛隊向けなど、防衛分野での事業が中心で、その後機内エンターテインメントシステムなどの商用アビオニクスでJALなど航空分野のビジネスが広がり、さらにキヤノンメディカルシステムなど医療分野でも実績を積み上げていった」と語る。
タレスが日本国内の事業をさらに拡大する転機となったのが、2019年のジェムアルト(Gemalto)の買収である。デジタルアイデンティティーやセキュリティなどに強みを持つ同社のソリューションが加わったことで、防衛と非防衛の事業バランスもとれるようになった。日本国内での売上高は約2億ユーロ(約257億円)で、タレスにとっても大きな市場となっている。「今後の成長に向けては、スタートアップを含めた日本の現地企業とエコシステムを構築しながら連携していくことが重要だと考えている。今回のEVERINGの事例は、この戦略に合致している」(デュポン氏)という。
タレスは、デジタルバンキングや決済サービスと関連する金融事業でさまざまなソリューションを展開している。タレス DIS ジャパン 金融事業本部 本部長の鈴木信太郎氏は「世界で3000以上の金融機関にサービスを提供しており、信頼性の高い決済とID管理に貢献している」と語る。
タレスが近年の市場動向で重視しているのが、EVERINGでも提供している非接触決済の拡大だ。大手クレジットカード会社が発行するいわゆるEMV(Europay、Mastercard、Visa)カードにおいて、2019年に発行された30億枚のうち非接触決済機能を持つカードは半分以上となる17億枚を占めた。そして、非接触カードの発行枚数は、今後5年間で年平均8%増加し、2024年には発行枚数で24億枚、EMVカード全体の80%を占める可能性もある。
EVERINGの事例でも分かる通り、非接触決済はカードにとどまらずさまざまな形態で提供されることが見込まれている。カードやスマートフォンに加えて、EVERINGのようなウェアラブル端末の利用が拡大しつつあり、2020年後半から生体認証型決済カードの商用利用もスタートした。2019年から2024年の5年間での市場拡大ペースは、カードが2.5倍、スマートフォンが2.8倍、そしてウェアラブル端末は7倍の伸びを見せるという。
タレスは、決済用のカードについて、ステッカーやミニタグ、マイクロタグ、そしてフレキシタグなどさまざまな形状の製品を金融業界に提供しており、ウェアラブル端末による決済の市場拡大にも深くかかわってきた。鈴木氏は「2014年にスペインのサッカーイベントで利用されたのを皮切りに徐々に広がりを見せている。さまざまな形での非接触決済が受け入れられる中で、目立たないウェアラブル端末への統合はトレンドといえるだろう。リング型デバイスでそれを実現したEVERINGは特筆すべき事例であり、数億枚のカード発行実績に基づくタレスの技術で貢献できていることはうれしいことだ」と述べている。
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