ペロブスカイト太陽電池は、低コストで高効率が可能な塗布型/薄膜型の有機系太陽電池の一つとして知られている。代表的な材料として用いられるMAPbI3が、結晶構造の一種であるペロブスカイト構造をとることから名付けられた。基礎技術を開発したのは、桐蔭横浜大学 大学院工学研究科 教授の宮坂力氏である。
その特徴としては、電子と正孔の有効質量が太陽電池に広く用いられているシリコンと同程度に小さく、移動度が十分高いことが挙げられる。実際に、エネルギー変換効率の理論限界値は、シリコン系太陽電池の29%を超える30%以上が可能とされている。そして、材料が塗布可能なのでフィルムに塗ればフィルム型太陽電池を実現でき、発電層の厚みも1μm以下で済む。塗布型/薄膜型有機系太陽電池では、不純物や格子欠陥で発生する不純物準位による効率低下が課題になっていたが、ペロブスカイト太陽電池はそれが起こりにくいことも大きな特徴だ。
ペロブスカイト太陽電池では、エネルギー変換効率25%以上の研究開発成果も発表されているが、そのほとんどは小面積のガラス基板であり、成膜法についても、量産への適用が難しいスピンコート法が広く用いられている。一方、今回の東芝の発表は、受光部サイズの面積が100cm2以上のフィルム型ペロブスカイト太陽電池モジュールで世界最高となるエネルギー変換効率15.1%を達成するとともに、メニスカス塗布技術による1ステッププロセスで生産性も向上している。「ペロブスカイト太陽電池がシリコン系太陽電池と大きく異なるのは、設置場所に制限の少ないフィルム型を実現できることだ。このフィルム型太陽電池で、多結晶シリコン太陽電池の効率に到達できたことは大きな成果だと考えている」(水口氏)という。
政府が策定した「2050年カーボンニュートラルグリーン成長戦略」では、電力の再生可能エネルギー比率を2018年の17.4%から2050年に50〜60%まで高める必要がある。この数字を達成するには、従来のシリコン系太陽電池の設置を増やすだけでは不足であり、都市部のビルや軽量屋根の工場などこれまで太陽電池を設置できなかったところに展開可能なフィルム型太陽電池が必須になるというのが東芝の見立てだ。
今後の研究開発目標としては、エネルギー変換効率を18%以上に高めるとともに、有機系太陽電池の課題である耐久性を15年以上に伸ばすことを挙げている。2025年度の製品化の段階では、シリコン系太陽電池と同等クラスとなる発電コスト1kWh当たり20円を目指す。
ペロブスカイト太陽電池の研究開発や事業化は活発に進んでおり、既にポーランドのサウレ・テクノロジー(Saule Technologies)が商業生産を開始したとアナウンスしている。また、大面積化、高効率の成果では、パナソニックがガラス基板ではあるものの804cm2でエネルギー変換効率17.9%を達成している。東芝は、これら競合各社の動向をにらみつつ、研究開発や製品化の前倒しも検討するとしている。
なお、東芝が開発したペロブスカイト太陽電池の技術およびそれを用いたモジュールはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「太陽光発電主力電源化推進技術開発」事業の成果となる。また、成果の詳細は、2021年9月10日からオンラインで開催される「第82回応用物理学会 秋季学術講演会」で発表される予定だ。
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