いきなり社長に呼ばれたらDXセキュリティ対策を丸投げされた件事例で学ぶ製造業DXセキュリティ対策入門(1)(2/4 ページ)

» 2021年09月01日 10時00分 公開
[佐々木弘志MONOist]
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序章:プロジェクトに必要なこと

では、本日より、リーダーの青井さんを中心にDXセキュリティプロジェクトを始めます。


 翌日、私と古井課長は、プロジェクトのキックオフミーティングを始めていた。昨日は、「DXセキュリティ」を取りあえずググってみたもののさっぱり分からず、そこから現実逃避でラノベを読みすぎたせいでよく眠れなくて寝不足状態だ。

早速ですが、課長。私はこのプロジェクトでいったい何をしたらいいのかがまだよく分かってないのですが。


黒川社長からのオーダーは、至ってシンプル。わがABC化学薬品で行われている幾つかのDXプロジェクトを安心して進められるように、必要なセキュリティ対策を実施することだね。


なるほど。では、まずは社内で、どのようなDXプロジェクトがあるかを洗い出して、各プロジェクトのセキュリティ対策を考えて、それを実施すればよいということですね。確か社内のイントラネットに、プロジェクトの一覧があったような気がします。


青井さん、ちょっと待って。結局はその通りの進め方になるとは思うけど、せっかくのキックオフなので、詳細に入る前にもう少し、そもそも論について話しておいた方がいいんじゃないかな。


 早速、PCを触り始めた私を課長がたしなめる。

青井さんは「DX」とは何か説明できる?


はい、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)から来ている言葉で、平たくいえば、とにかくあらゆるビジネスにITを使って便利にしていこうってことですかね。だから、わが社でいえば、AIとかIoTとかクラウドとか、そういうのをバンバン使って、もっと働きやすい環境を実現したり、お客さまへの提供価値を高めたりしていく、といったところでしょうか。


さすがよく勉強してるね。確かにおおむねその通り。ただ、単にITをどんどん使っていくというだけではなくて、それを使う人の側にも変化を求めていることが大事な点だ。例えば、わが社の購買承認プロセスは、ほんの数年前までは、紙で印刷して、そこに手書きで必要事項を書いて、関係責任者を回覧して承認印を得るというものだった。だから、急ぎのときには、その紙を持って社内説明に走り回ったもんだ。


 DXググって調べといてよかった。確かに、いつも回覧の流れを途中で止める人がいて苦労したなんて話を先輩から聞いたことあるな。さすがに最近はあまり聞かないけど。

数年前に、わが社も購買システムを導入したんだけど、当初は皆使い方に慣れておらず、結局、システムから紙を印刷して、責任者を回って説明して承認をしてもらうという運用が続いたんだよ。しかも、このやり方だと、その場でハンコを押してもらえない分、紙よりも効率が悪い。青井さんは、これいったい何がまずかったと思う?


えーと、当時のことはよく分からないのですが、今の購買システムでは、そこまでストレス感じていません。ただ、昔は、承認を得るための責任者がもっと多かったので全員の承認得るのが大変だったと聞いています。今なら、例えば私の場合、基本的に古井さんと購買に承認をもらえばいいので楽ですね。要はあまり意味のない承認者が多かったとかですかね。


そうだね。要は、本当に変えなければいけなかったのは、いろんな部門の責任者が「何でもかんでも、俺にもちゃんと話を通しておけ」と考える企業文化そのものだったんだよ。それで何かあっても別に責任取るわけでもないのに。その文化をそのままIT化したところで、そもそも非効率なんだからうまく回るわけがない。


なるほど。そんな深い話だったんですね。


DXというのは、こういう企業文化に対しても考え直す良いきっかけなんだ。ちなみに、購買システムは使いにくいという不平不満が上がった結果、承認者の大幅見直しにつながったから、その意味では良かったかもしれないね。“ハンコーズ”の抵抗はかなり強かったみたいだけど。


ハンコと反抗をかけてるんですね。さすがです。メモメモ。


いや、そういうの解説しないでよ。ここ笑うとこなんだが。まあ、少し脱線したけど、今の黒川社長は、古い文化を見直して、青井さんのような若い人にも、働きやすい、いい会社だと思ってもらいたいと常々話しているんだ。


なんかありがたいですね。勝手に大黒様とあだ名を付けていたことを深く反省します。


それは、今度、社長に伝えておこう。


それはやめてください。


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