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» 2021年07月07日 06時30分 公開

1000万倍高速の汎用原子レベルシミュレーターをPFNとENEOSが開発、SaaSで提供へ研究開発の最前線(2/3 ページ)

[朴尚洙,MONOist]

一般的なマテリアルズインフォマティクスで難しい逆問題にも対応可能

PFCC 取締役を務めるENEOSの藤山雄一郎氏 PFCC 取締役を務めるENEOSの藤山雄一郎氏

 PFCCの取締役でENEOS 執行役員 中央研究所所長を務める藤山雄一郎氏は、近年のマテリアルズインフォマティクス(MI)技術の動向や、その中でのMatlantisの位置付けについて説明した。

 2011年から米国で取り組みの始まったMIは、材料開発にAIを用いることで膨大な候補物質から有望材料を高速に見いだす技術として、近年は日本を含めた各国でも開発が活発化している。藤山氏は「大手の材料メーカーでMIに取り組んでいない企業はないだろう」と述べる。

世界各国と企業がMIに取り組んでいる 世界各国と企業がMIに取り組んでいる(クリックで拡大) 出典:PFN

 一般的なMIは、実験データや文献データを基にした機械学習モデルを用いて、化学構造から物性を予測するものだ。画像認識AIなどと同様に、データさえあれば理屈が分からなくてもシミュレーターを作れるものの、学習に用いたデータから大きく外れる物質の予測が困難であり、広範囲の予測を可能にするには膨大なデータが必要になるという課題もある。「過去の実験データはデジタル化されていないことが多く、文献データには機械学習で重要な失敗データがない。また、企業内の虎の子ともいえる実験データを集めること自体が難しいという問題もある」(藤山氏)。

一般的なMIと「Matlantis」の比較 一般的なMIと「Matlantis」の比較(クリックで拡大) 出典:PFN

 Matlantisでは、PFNのスーパーコンピュータを用いて、量子化学を基にした第一原理計算で導出したさまざまな原子配列(分子)のエネルギーをデータベースとして深層学習モデルを構築する。原子配列をこの深層学習モデルに入力すればエネルギーが出力され、このエネルギーを基にさまざまな物性も導き出される。特徴としては、量子化学を基にした第一原理計算という理論に基づくので、未知の物質も予測可能であり汎用性が高い。藤山氏は「ここで課題になるのが、教師データ作成に必要な計算リソースと専門知識とだが、計算リソースはPFNのスーパーコンピュータを活用した。そして、この世に10の60乗種類あるといわれる分子の予測が行えるように、1000万程度のデータセットをどのように用意すべきかという点についてはENEOSの知見が生かされている」と説明する。

 また、一般的なMIでは、物性から化学構造を予測するという「逆問題」が難しいことも課題になっている。Matlantisは、従来比で10万〜1000万倍にもなる高速性を利用して、数万の原子配列を用意して物性の計算を行ってから求める物性の近傍の原子配列を選ぶという形で、疑似的に逆問題を解くことができる。藤山氏は「われわれ実験化学者にとって、人もお金も時間もかかるリアルな実験はとても重要だ。できるだけたくさんやりたいが、その余地がないのが現実。そこで、Matlantisを使ってバーチャル実験を行って、1万個の候補の中から10個選んでリアル実験にかけられるようになれば、研究開発サイクルを変えられるのではないかと考えている」と述べる。

「Matlantis」が研究開発サイクルを変える 「Matlantis」が研究開発サイクルを変える(クリックで拡大) 出典:PFN

 なお、ENEOSにおける触媒や潤滑油、吸着材などの開発でMatlantisは非常に良い結果が得られている。今後は、ENEOSでもMatlantisを活用していくが、その汎用性の高さから、材料開発に取り組む企業や大学、研究機関にも広く展開することを決めた。「Matlantisで革新的なマテリアルの創出に貢献したい。時々刻々と変わる世の中で必要とされる材料の開発を加速したい」(藤山氏)という。

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