東京都では、都市の3Dビジュアライゼーション事業を開始し、西新宿エリアや大江戸線都庁前駅の都市モデルを構築した。都が推進する東京のデジタルツイン化は、プロジェクトプラトーとも足並みをそろえて推進する。2021年度の都としての取り組みは、地下空間を含めたリアルタイム人流データの可視化、地下埋設物の3Dモデル化、携帯電話機の情報を活用したデジタルマップの更新の検証などを予定している。さらに、東京都全体のデジタルツイン化と社会実装に向けたロードマップ策定もテーマとなる。
ロードマップ策定に当たって都が検討事項に挙げているのは、産官学の役割やコストの分担、デジタルツインのメンテナンスの在り方、費用対効果の算出などがある。
検討会に出席した有識者からは、東京都が推進するデジタルツインの社会実装にさまざまな意見が寄せられた。費用対効果については、東京大学の吉村氏が「これまで、街づくりの評価そのものがあまりされていない。街づくりの評価手法を確立すること自体が1つの大きな取り組みになる。移動などにかかる時間をどれだけ短縮したか、街から出るCO2をどれだけ削減したかなど、クールなファクターが費用対効果で注目されがちだ。しかし、その街に住む人や引っ越してきた人が幸せに生活できるかどうかというQOLの観点もほしい」と指摘した。
デジタルツインの整備や維持のコストについて、青山学院大学の古橋氏は「デジタルツインのレベルが上がると、データ整備のコストも増える。そうなると、一定の部分を行政でカバーできても、民間企業から協力を得られるものと、ビジネスとして競争していくものが出てくるのではないか。『Open Street Map』『Mapillary』のように誰もが地図のアップデートに参加できるコミュニティーでは、大手のテック企業が人件費をかけてコミットし、その成果をビジネスに使いながら収益をオープンデータの維持に使うという流れがある。企業にメリットが還元される流れによって、負担を軽くしながら続けていくことができる可能性がある」と述べた。
この他にも、社会実装に向けて都民が参加するには「都民が生活に役立っていることを実感することが必要だ。都市データとは言うが、23区だけでなく東京全体を見るべきだ。23区だけの取り組みは、他の自治体からはバランスが悪く見える」(古橋氏)との意見が上がった。また、「学生など若年層がワクワクでき、関心を持たれやすくすることが活性化につながる」(吉村氏)との指摘も見られた。現在は屋外が中心の都市モデルを、建物内や地下にも拡大することで、バリアフリーな移動の拡充など役立つ場面が増えそうだとの声もあった。
都庁内で横ぐしを刺して取り組むことや、都内の区市町村とも連携して二重投資を避けながら過度な負担が発生しない形で共同でデータを整備することが重要だという声もあった。民間企業が利用しやすいことを重視したライセンス体系や利用規格も必要だと指摘された。
さらに、長期的な目線で産官学が腰を据えて取り組むことの重要性も有識者が訴えた。「デジタルツインは、今後の社会や街づくりに確実に必要になるインフラだ。都だけでは実現が難しい。産官学で育てていくプラットフォームであるという意識が必要だ。長期での取り組みが難しい企業は短期で、行政は長期で、というように、みんなで育てていくための分担や貢献できることを整理すべきだ。日本は都市開発などで風景が欧州などよりも早く変わっていく。記録として残す役割にも期待したい」(吉村氏)。
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