前回、「工場内ネットワークの在り方」をあらためて考えるとしていた矢面さんですが、その後どうなったのでしょうか。
印出さん、こんにちは。
矢面さん、こんにちは。あれからどうなったの?
いろいろ検討したんですが、うちの規模だと大掛かりな投資は難しいので、まずは現状の技術で基本となるネットワーク環境の整備を進めながら、使える技術から地道に使っていき、将来的に拡張するタイミングであらためて検討することにしました。
おお、地に足が付いている感じね。
まだ、そこまでリアルタイムで大容量の通信が必要な取り組みや、同時多接続が必要なところは限られていますしね。ただ、ローカル5Gについては、団体の研究会での実証に参加して、そこで見極めることにしました。
良いと思うわ。使いたい内容と効果、費用などの折り合いが付いた段階で本格的に動き出せるように準備をしておくのは重要よ。
ただ、ネットワークの整備が必要な理由とも少し関係するんですが、1つ悩みどころがあるんです。スマート工場化を進める中で「搬送の自動化」がもっとできるのではないかという話になって、自律移動するAGVを導入する話になったんですが、いろいろ分からないことが多いんですよ。ネットワークの問題もありますし。
なるほどね。AGVの活用は今すごく広がっているわね。
日本の労働環境では、労働人口減少による人手不足が顕在化しており、製造現場でも人手作業の低減は大きなテーマとなっています。加えて、コロナ禍などで人の移動が制限を受けることになり「人がやらなければならない」という必然性のある作業以外はできる限り自動化を進めることが求められるようになりました。こうした中で、従来人手作業に頼る部分も大きかった「搬送の自動化」が大きな注目を集めています。
そもそもどうしてこんなにAGVが注目を集めているんですか。
1つは今話した通り、人手不足から自動化できるところを増やしたいという背景があるわ。そしてもう1つのポイントが、さまざまな技術進化で“自律的に”柔軟な搬送が行えるようになったということがあるわね。
従来の搬送システムは、ベルトコンベヤーなどの固定化された大掛かりなものが大半でした。これは同じ作業の流れで同じようなものを動かしていくという面では効果的でした。しかし、最終顧客のニーズの多様化や、需給変化のスピードが早まっている状況から、変化に柔軟に対応するということが求められるようになると、固定化された搬送システムが適用できる領域は狭まり、生産性や費用対効果の面で使えない領域が増えてきます。
ベルトコンベヤーよりも少量の搬送で、柔軟に変更できる仕組みとしてAGVも以前から活用されてきましたが、従来技術ではガイドとなるレールの敷設や磁気テープ、マーカーの設置が必要でした。ルートが固定化されると、それをベースとした工場内での運用が進み、改善活動の幅が狭まり、これらも固定化された一部の搬送を担うのにとどまってきました。結局、従来は、少量で変化が多い領域では、部品のピックアップなどと併せて、人手で行う方が効率が良く、“ミズスマシ”とされる台車に部品やワークを載せて工程間や工程内を搬送し続ける担当者が置かれています。
しかし、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping、環境地図作製と自己位置推定)技術などの発展により、動作環境を測定し自動的に地図を作り、カメラやレーザースキャナーなどの測定結果を照らし合わせて、自律的に動くAGVが登場し、レールや磁気テープ、マーカーなしに、搬送が行えるようになりました。これにより、この“ミズスマシ”など人手の搬送部分も自動化できる可能性が生まれ、注目が集まっているというわけです。
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