部品メーカーとしては、日々の発注は、毎日同じ数量だけ引き取られる「平準化」されていることが望ましいです。発注に合わせ、日々の生産も平準化できるためです。ただ、実際には毎日同じ数量というわけにはいきません。自動車メーカーでは日ごとに生産数の変動がありますし、複数の自動車メーカーに納入する場合はもちろん納入先の数だけ生産計画が必要になります。また、設計変更に伴う部品の変更などもあり、実際の発注に応じて生産計画の変更や、在庫の確保、出荷に日々対応する必要があります。
確定発注は、車両の生産台数とは必ずしも一致しません。例えば、ティア2以降の部品メーカーであれば、ティア1の部品メーカーの都合に合わせて先行生産する場合もあり、車両の生産台数とは異なる数量で発注されることもあります。また、月が変わって生産量が大きく変わる場合には、「安全在庫」の数量に合わせて発注の数量も大きく変動します。
安全在庫とは、需要のばらつきやトラブルに備えて、欠品を防止するために必要な在庫です。例えば安全在庫が0.5日分、前月の生産量が100個、その翌月の生産量が200個となった場合、月末にある安全在庫は前月の50個から100個に増やす必要があります。そのため、翌月の安全在庫分であるプラス50個を含めた発注が行われます。このように、月替わりの際には発注が変動しやすいため欠品が発生しやすく、注意しなくてはいけません。
自動車メーカーで何らかのトラブルがあって操業調整が行われた場合は、部品メーカー向けの確定発注に対しても調整が行われることがあります。納入の全面カットの他、納入を後ろ倒しにして特定の納入便の発注をゼロにするスライドでの対応が行われることが多いです。部品メーカーでも仕入先などに対して生産調整が必要となりますが、調整された納入が後で追加となる「挽回生産」があるかどうかを確認しておかないと、後々数量が増えたときに対応できない場合もあります。
2021年に入ってから、災害や部品不足で自動車メーカーの生産調整が相次いでおり、部品メーカーは日々生産動向を確かめながら生産調整を行っています。毎月20日ごろに提示される次月内示を見たら急に数が減っていて、自動車メーカーから公式の連絡が入るよりも先にインターネットのニュースで情報が入ることもあります。部品メーカーはムダが発生しないよう、情報を迅速に収集し、自社の計画に反映できるよう努力しています。
内示や販売計画は、部品メーカーと自動車メーカーで非常にもめやすい問題です。自動車メーカーとしては実際の需要に応じて生産計画をなるべく柔軟に変えたいところです。一方、部品メーカーにとっては、生産数量の大きな変動や生産調整の頻発は、設備投資や先行生産の判断が難しくなり、仕入先を含めた能力確認なども大きな負担になります。
以前の記事『コロナ禍でも圧倒的に強いトヨタ、「下請けたたき」は本当か』でも書いたように、自動車メーカーの要望によって設備能力を増強したものの、計画通りの発注が来なかったために償却できず、補償問題になるケースもあります。
最近大きな問題となっている車載半導体の供給不足に関する報道では、欧州自動車メーカーが「コロナ禍の影響から販売が早く復調しており、生産台数も回復する」と連絡していたものの、メガサプライヤーがその数量に応じた部品の手配を行っていなかったことから、車載半導体の調達が難しくなったのではないかと指摘されています。
部品メーカーから自動車メーカーへの納入のあるべき姿は、「ジャストインタイム」です。極力在庫を持たず、必要なときに必要な分だけ納入することが理想ですが、実際は販売計画や内示との数量差、平準化されておらず数量にばらつきのある納入、災害など突発的なトラブルがあります。欠品なくかつコストミニマムで利益の上がる生産・出荷体制とすることは一筋縄ではいきません。
今後はデジタル技術やITも活用しながらカイゼンを進め、工場を中心に関係部署が協力し合い、生産・出荷体制を最適化することが求められています。
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