小型ボードコンピュータ「Raspberry Pi(ラズパイ)」を使って、低コストかつ現場レベルでIoT(モノのインターネット)を活用する手法について解説する本連載。第8回では、工場などで用いられるAGVの制御にラズパイを活用する目的について解説する。
近年、工場などで用いられるAGV(Automatic Guided Vehicle:無人搬送車)について、より高度な走行制御を行うための取り組みが進んでいます。そこで、AGVの制御に小型ボードコンピュータの「Raspberry Pi(ラズベリーパイ、略してラズパイ)」を活用する目的や方法について今回と次回の2回に分けて解説します。
AGVはこれまでも広く利用されおり既に一定程度普及しています。ただ最近は、新規ラインを構築するに当たり自動化の範囲を搬送工程まで広げるケースが増えており、そのためにAGVが注目を集めているのです。
しかしながら、配置された各工程の中で物を流すような「ジョブショップ配置」の場合、部品供給のために倉庫から工程の複数のポイントに部品を搬送する必要があります。このような場合はあらかじめ決められた動線通りに物を搬送することができません。最近はモバイルロボットやAMR(Autonomous Mobile Robot、自律走行搬送ロボット)と呼ばれるAI(人工知能)機能を搭載した無人搬送ロボットが出てきました。いろいろな呼び方がありますが、AGVの呼称が皆さまにはなじみやすいのでここではAGVと表現させていただきます。
AGVの搬送方式は主に3つあります(図1)。
ライントレース式は従来型のAGVで用いられてきた方式で、磁気テープなどでマークしたガイドライン上を走行します。比較的安価に導入できますが、固定されたルートしか走行できず、ルート変更に手間がかかるのが欠点です。
これに対し、SLAM式は無線による目的地への指示に対して、前面についたカメラなどのセンサーを使って現在の位置や障害物を判断し目的地に向かって走行する方式です。ライントレース式のように軌道が固定されないので無軌道型とも呼ばれます。複雑な経路に向いていますが、周辺環境のマッピングやティーチングに時間がかかるのが欠点です。周辺環境が変化したり、複数のAGVが相対するとどちらもよけれずにらめっこしてしまったりするケースもあります。
ランドマーク読み取り式は床面の一定間隔にランドマークと呼ばれるシールを貼りAGVがそのマークを定期的に読み取ることにより、正確な位置を把握することで安定した自律走行ができます。これらランドマークは、磁気テープより安価で設置しやすいという利点もあります。ただし、ランドマークを設置したエリアでの走行範囲にとどまることや、事前にランドマークを設置する作業が必要になることが欠点になります。
複雑な経路で複数のAGVを走行する場合には、事前にランドマークを貼る手間がかかりますが、位置精度の高いランドマーク読み取り式がよいでしょう。複雑な経路を走行する必要があるものの、スペースが広く、障害物が比較的少ない環境下であればSLAM式が適しています。最近は複数の走行方式を切り替え可能なAGVも出てきていますので、実証実験を行って自社の搬送シーンに最適な搬送方式を選択することも可能です。
費用はライントレース式が最も安価で、1台当たり数十万円程度となります。SLAM式、ランドマーク式のAGVは最低でも1台100万円以上になります。高機能になれば1台数百万円のものもあります。従来型のAGVと比べて高機能な分高額となりますので、利用シーンから本当にその搬送方式のAGVが必要かどうかを検討すべきでしょう(表1)。
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