東芝が2020年度(2021年3月期)連結決算を発表するとともに、新たに代表執行役社長 CEOに就任した綱川智氏の体制による今後の経営方針について説明。前CEOの車谷暢昭氏が推進してきた中期経営計画「東芝Nextプラン」のコンセプトは堅持する一方で、環境変化に応じた計画修正を図り、2021年10月発表予定の「22〜24年中期計画」に反映する。
東芝は2021年5月14日、オンラインで会見を開き、2020年度(2021年3月期)連結決算を発表するとともに、新たに代表執行役社長 CEOに就任した綱川智氏の体制による今後の経営方針について説明した。前CEOの車谷暢昭氏が推進してきた中期経営計画「東芝Nextプラン」のコンセプトは堅持する一方で、環境変化に応じた計画修正を図り、同年10月発表予定の「22〜24年中期計画」に反映するという。また、車谷氏の電撃的な辞任の引き金となった株主との関係性への対策を意識してか「株主価値向上」「内部管理体制強化」を前面に押し出した発表となった。
綱川氏はCEO就任に当たって「変えないこと」「修正すること」「大幅に改善すること」の3点で今後の経営方針を示した。
まず「変えないこと」として、東芝グループの経営理念と、「新しい未来を始動させる」という存在意義、「誠実であり続ける」「変革への情熱を抱く」「未来を思い描く」「ともに生み出す」という4つの価値観について「これは不変である」(綱川氏)ことを示した。その上で、これまで推進してきた東芝Nextプランの目的や3フェーズによる成長を挙げた。東芝Nextプランでは、企業価値の最大化を通じた株主価値向上の実現をうたい、成長投資、リスク管理、収益力の向上の3本柱でTSR(Total Shareholder Return)の拡大を目指すとしている。また、2018年からの基礎収益力を強化するフェーズ1、2020年からのインフラサービスカンパニーとしての安定成長を目指すフェーズ2、2023年からのCPSテクノロジー企業としての飛躍を果たすフェーズ3という3段階での成長の方向性は基本的に変更しない。
また東芝は、2015年に発覚した不正会計問題などによる経営危機を受け、経営の最重要課題として内部管理体制の強化に注力しており今後もこれは継続する。2021年4月からはリスクコンプライアンスマネジメント室を新設した。綱川氏は「形式だけではない、実質的な現場風土改革に向けて私自らが積極的に関わっていく」と語る。同様に経営危機の原因となった財務規律についても厳格な運用を維持し、キオクシア株式現金化時に手取金純額の過半を株主還元に充てることなどを含めた株主還元方針も堅持する。
「修正すること」として挙げたのが、環境変化に応じた計画の修正である。綱川氏は「東芝Nextプランの基本方針は堅持するが、その目標値については、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や米中貿易摩擦など外部環境が大きく変化しているため、柔軟に対応しながら計画を見直す必要がある」と説明。修正した戦略を盛り込んだ22〜24年中期計画に反映する方針だ。
なお、2020年11月に発表した東芝Nextプランの進捗状況説明で挙げていた、再生可能エネルギーを中心としたカーボンニュートラル関連事業、VPP(バーチャルパワープラント)や量子セキュリティ、消費動向ビッグデータなどデジタル/データ事業に注力する方針に変更はない。「政府が発表した2030年までのCO2削減目標46%に向けて、この先10年間、再生可能エネルギー関連で50兆〜80兆円規模の投資が見込まれる。当社がインフラサービスの提供でカーボンニュートラルの実現に貢献することは成長に向けた大きなチャンスであり、先行投資していく」(綱川氏)。
「大幅に改善すること」では、綱川氏が2021年4月15日の代表執行役社長 CEO就任会見でも強調した「全てのステークホルダーとの信頼関係の再構築」に取り組むことを言明した。株主、顧客、サプライヤー、ビジネスパートナー、従業員、社会といったステークホルダーとの対話を重視し関係改善を図る。その一環として、さらなるコーポレートガバナンスの強化に向けて「戦略委員会」を設置することを決めた。戦略委員会は、取締役会技術を委員長に複数の社外取締役で構成され、執行部から独立した立場で、取締役会による意思決定を支援する組織となる。
これらの経営方針を基に、2021年度は基礎収益力の強化、限界利益率の向上、固定費の圧縮を継続しながら、カーボンニュートラルへの貢献をはじめとする成長分野に210億円を投資する。株主還元では、2020年度期末配当は前回予想から30円増となる70円とし、中間配当10円と合わせて年間80円(前年度比60円増)とする。加えて、期末配当も考慮した上で1500億円の追加還元も決定した。この追加還元の内容は2021年6月上旬に公表する予定だ。
最後に綱川氏は「経営の安定化に早期にめどを立て、次の世代に引き継いでいく」と延べ、代表執行役社長 CEO就任会見と同様に、自身が次代の経営陣への中継ぎ役であることを強調した。
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