SIS ECUは車線レベルで現在地を特定して車両の姿勢を把握するとともに、車両制御を担うADS ECUに前方の走路情報を渡す役割だ。GNSSと6軸ジャイロセンサー、車速を基に車両の姿勢や走行軌跡を推定。フロントカメラやLiDARなどから得られる情報も自車位置の特定に使用する。前方の走路情報は、高精度地図やリアルタイムな交通状況、ナビゲーションシステムのルート情報などを基にしている。高精度地図がOTAで更新されることを踏まえ、セキュリティ技術も搭載したという。
ADS ECUは自動運転の基本ロジックが搭載されたECUだ。車両の周辺を監視するカメラやLiDARなどのセンサーの情報を数ms単位で高速処理する。カメラの映像を扱うデータ通信にはギガビットイーサネットを採用した。電源の二重化、複数のSoC(System on Chip)とMCUを組み合わせる事による安全性の確保などにより、自動車の機能安全規格ISO 26262で最も厳しい安全要求レベルASIL(Automotive Safety Integrity Level) Dを満たした。トヨタの設計により、ECUの冷却にはエアコンの風を利用している。
Advanced Driveでは、AI(人工知能)を活用して周囲の交通状況などから運転中に遭遇し得るさまざまなシチュエーションを予測している。また、カメラから得られた画像を処理する際に、従来よりも認識精度を向上する上でもAIが貢献しているという。こうしたAIを使った機能はADX ECUがになっている。ADS ECUはルネサス エレクトロニクスの、ADX ECUはNVIDIAの製品が採用されており、従来の制御用マイコンの50〜100倍の演算能力を持つとしている。どちらのECUもOTA対応だ。消費電力の大きさや高速通信の採用に伴い、シミュレーションによるEMC(電磁両立性)設計を行った。最先端の半導体部品は、寿命故障解析などによって車載レベルの信頼性を確保した。
Advanced Driveの開発は仕様検討の段階からトヨタとデンソーが一体となって取り組んだ。ハードウェアはデンソーが設計、開発、生産に責任を持ち、車両の性能についてはトヨタとウーブン・コア(旧TRI-AD)が担当。ソフトウェアでは、既存の運転支援システム「Toyota Safety Sense」と同様に自動運転のコンセプトを決める段階からデンソーとトヨタで協力している。トヨタとデンソーの共同出資で設立した車載半導体の研究開発会社「MIRISE Technologies(ミライズテクノロジーズ)」の知見も取り入れられている。
今後はデンソーの半導体IP設計会社「NSITEXE(エヌエスアイテクス)」が手掛ける「データフロープロセッサ(DFP)」についても活用を検討したいとしている。
自動運転技術の開発について、武内氏は「車両に搭載するセンサーの数が増えるということは、データ量も増える。今後、Advanced Driveを進化させていく上では走行シーンも多様化する。大量のデータを効率的に使って、より多くのシーンを検証しなければならない。先進的な開発環境の利用や、関係者が同じ環境で開発できるような環境の整備が必要だ」と述べた。
また、Advanced Driveでは車外の画像データなど走行データを記録し、販売後の車両からトヨタのサーバに送信することにより、今後の自動運転開発や安全技術、地図データの研究開発に生かせる情報も得られる。これまで、販売済みの車両から手に入る走行データは決して多くなかった。サプライヤーのデンソーとして入手できるデータはさらに限られていた。自動運転システムは走行中に得られるデータ量が大きくなることから、貴重な材料となりそうだ。
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