モノづくり施設「DMM.make AKIBA」を活用したモノづくりスタートアップの開発秘話をお送りする本連載。第9回は、モーターやセンサーを内蔵した“IoTティーポット”を製品化したLOAD&ROADを取り上げる。試作品の段階では「お茶を入れたポットから直接飲む」という方式を取っていた同社。しかし、便利だがこれで本当に「最高のお茶体験」を提供できるのか疑問を抱く。
オープン6年目を迎えた東京・秋葉原の会員制モノづくり施設「DMM.make AKIBA」で社会課題を解決しようと奔走するスタートアップを追いかける連載「モノづくりスタートアップ開発物語」。第9回は、モーターやセンサーを内蔵したIoT(モノのインターネット)ティーポットを製品化したLOAD&ROAD(ロード・アンド・ロード)を取り上げる。「最高のお茶体験」の提供を目指す同社 CEOの河野辺和典氏に、IoTティーポット開発の狙いや開発時に苦戦した点を聞いた。
コンビニに行けば、それなりにおいしい味のペットボトル入りのお茶を簡単に、安く手に入れられる現代。だが、たまには入れ方を熟知したプロのお茶を飲むのも悪くないかもしれない。プロのお茶は私たちをいつもと違うプチぜいたくな気分に浸らせ、リラックスさせてくれる。
そんな非日常感を簡単に体験できるのが「teplo ティーポット」だ。簡単に言うと、脈拍計測センサーやスマートフォンアプリを通じて、その日の気分やコンディションに応じた“パーソナライズ茶”を提供するものである。
teplo ティーポットのサイズは約20cm四方。ポット上部に茶葉を投入するステンレス製のインフューザー(こし器)があり、回転することでお茶を入れる。ポットには水温を制御するヒーターなども内蔵されている。
具体的な使い方は以下の通り。まずポットに水を、インフューザーに茶葉をそれぞれ入れる。次にBluetoothでteplo ティーポットとスマートフォンを接続。専用アプリケーションを立ち上げて、お茶を飲むことで「どんな気分になりたいか」を選択する。加えて、ポット下部にあるセンサーに人差し指を置き、脈拍など身体のコンディションをチェックする。
teplo ティーポットはこれらの情報をサーバに送信し、茶葉の抽出時間や抽出温度などを自動算出する。結果はスマートフォンの画面に表示されるので、ユーザーはその提案を受け入れるかを選択する。承諾後、5分程度待つとパーソナライズされたお茶が抽出される仕組みだ。
teplo ティーポットはCES 2019でも「CES イノベーションアワード」を獲得するなど、高い評価を受けているという。
――2020年8月にteplo ティーポットを発売しましたが、評判はいかがですか。
河野辺和典氏(以下、河野辺氏) 自社サイトだけで販売したのですが、おかげさまで大きな反響をいただきました。2020年8月末にはもう在庫切れとなってしまったので、慌てて増産をし、同年10月に販売を再開しました。
――千葉大学工学部を卒業後、2014年に米国マサチューセッツ州のバブソン大学大学院を卒業されたとのことですが、起業までの経歴にはお茶とあまり縁がないように感じます。
河野辺氏 大学院はボストン近郊にあり、冬はとても寒い気候でした。毎日ホットコーヒーを飲んでいたのですが、飲み過ぎてある日胃が痛くなってしまい……。その時、ちょうど部屋に日本茶のティーバッグがあったので飲んでみたら、体があったまり、胃痛も起きない上にとてもおいしかった。
それ以来、日本茶を飲む生活が始まりました。ただ、飲んでいるうちに「もっとおいしく飲みたい」と思うようになり、お茶を入れる過程をエンジニア視点で考えるようになりました。するとお茶は入れるまでに、お湯の温度、量、抽出方法、抽出時間など、制御すべき変数が多いことに気付きます。当時はIoTという言葉が普及し始めていた頃でもあり、「それなら茶葉をハード(ティーポット)とアプリケーションで制御するサービスが作れれば、新しいお茶のエコシステムができそうだ」と発想しました。
――日々の生活から事業を思い付いたのですね。
河野辺氏 「お茶を軸とした事業をしたい」と考えてから、すぐにお茶市場を調べました。米国では日本食の流行で日本茶の需要が増えていました。一方、日本でもレッドオーシャン化したコーヒー市場に対して、お茶にはまだまだ可能性があると感じ、留学した翌年の2015年に、インド出身のクラスメートであるマユレシュ・ソニ(現在はLOAD&ROAD CTO)とともに、会社を起こしました。
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