回転する野球のボールの高精度な空力解析を行うには、ボールの表面近傍と後流に対して、高解像度格子を効率良く配置する必要があり、かつ回転により移動する縫い目に対しても精度の良い境界条件を設定しなければならない。こうした回転する野球ボールの空力解析の難しさを、2160個のGPUを搭載し、12.15P(ペタ)FLOPSのピーク演算性能を有するTSUBAME3.0の計算機資源を利用することで克服した。
これにより、ピッチャーの手からリリースされたボールがバッターボックスに届くまでに受ける力(抗力、横力、揚力)について、従来は時間平均(積分)でしか測定できなかったものが、時間とともに各力がどのように変化しているかを確認できるようになった。そして、ボールの縫い目の回転により変化する揚力の動きに着目し、ボール1回転分の縫い目の角度とそのときの揚力を対応付けて変動を見ていき、ツーシーム(フォーク)において、縫い目の角度が−30〜90度の範囲内で、ボールの進行方向に対して下向きの垂直な力が働く負のマグヌス効果が発生することを特定した。
「これまで負のマグヌス効果は、縫い目のある野球のボールには発生しないとされてきたが、われわれの研究チームはスパコンを用いて、縫い目の形状まで含んだ高解像度の回転するボールに対して非定常の数値流体シミュレーションを実施することで、負のマグヌス効果が野球のボールにも存在するということを初めて発見した。また、球速が時速151.2kmで、同じ1110rpm(rpm:1分間の回転数)のボールでも、フォーシームだとあまり落ちず、ツーシーム(フォーク)の方がボールがよく落ちることが確認できた。つまり、ボールの回転数が少ないからボールが落ちやすいという従来考えられていた理論ではなく、負のマグヌス効果によってボールが落ちるということだ。ここが今回の一番大きな発見といえる」(青木氏)
なお、回転するボールの縫い目には正のマグヌス効果を助長する作用があり、先のツーシーム(フォーク)においてもボール1回転のうち正のマグヌス効果が発生している箇所が見られる。これに対して、球速が時速151.2kmで、回転数が2230rpmのフォーシーム(ストレート)では正のマグヌス効果を持つ回転する縫い目がボールの上下面を頻繁に横切るため、負のマグヌス効果は発生しないという。
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