今回のHD-PLC4 IPコアの発表と併せて、パナソニックが展開を強化していくことを示しているのが、電力線以外の既設のメタル線への適用である。荒巻氏は「既設のメタル線に通信を重畳して利用するという意味において、電力線はノイズ対策なども含めて最も難易度が高い。つまり、電力線で通信できるということは、空調や調光の信号線、インターフォンケーブル、同軸ケーブル、電話線でも通信できるということだ」と説明する。
パナソニックはHD-PLCについて、IoT(モノのインターネット)向けに最適な通信技術として「IoT PLC」という呼称での事業展開を進めている。IoT向けではWi-Fiをはじめとする無線通信が前提になっているが、利用周波数帯の2.4GHzや5GHzの混雑が既に課題となっているWi-FiだけでIoT化していくさまざまな機器の通信を担うことが最適とは限らない。そこで、設備や大型家電など持ち運びを前提としない固定機器については既存のメタル線で通信を行えるIoT PLCを適用する余地が大きいのではないか、というのがパナソニックなどHD-PLCアライアンスに加盟する企業の想定になる。
日本国内では、電波法によってPLCの利用が強く制約されていることもあり、PLCの普及を実感することはない。しかし、中国や韓国、欧州などの海外市場ではPLCの利用が強く制約されていないため徐々に採用が拡大しつつある。中国では、超高層ビルのエレベーターシステムの通信にPLCが採用されており、欧州向けのスマートメーターでもPLCによる通信が用いられている。実際に、先述した2020年までのHD-PLC機器の出荷台数400万台のうち8割は海外向けとなっている。
荒巻氏は「Wi-FiやBluetooth、LPWA(低消費電力広域)ネットワーク、LTEや5Gといったセルラーネットワークなどの無線通信、そして有線通信であるイーサネットを含めたIoT通信技術の中で、HD-PLCは補完的役割を果たせると確信している。周辺全域に通信波を出す必要がある無線通信と比べて消費電力が小さい一方で高速の通信が可能であり、イーサネットでは難しい長距離通信に対応できるというメリットをより多くの人に知ってもらいたい」と語る。
2030年までにPLC対応ICを累計10億個出荷する目標については、ビルシステムやエネルギーシステム向けが需要の中心となる見込みだ。特に、エネルギーシステム向けでは、太陽光発電システムの制御について、パワーコンディショナー単位から、太陽光発電パネル単位になるトレンドがあり、その通信制御にPLCの活用が期待されているという。「無線では通信品質が安定せず、消費電力の効率も良いとはいえない。PLCはそれらの課題に対応できる」(荒巻氏)。既にスマートメーターなどではPLCに対応する通信ICが組み込まれつつあり、海外でのこれらのトレンドが本格化すれば累計10億個出荷の目標も十分に達成可能だという。
これらB2B向けでの市場拡大が進めばPLCのIC価格がさらに低下することになり、パナソニックが進めている住宅向けなどの「くらしネットワーク」におけるIoT PLCの採用を広げられる余地は十分にある。荒巻氏は「電波法におけるPLC関連の改定も検討が進んでおり、それによって国内でのPLCの利用範囲も拡大していくことが期待できる」と述べている。
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