モノづくり施設「DMM.make AKIBA」を活用したモノづくりスタートアップの開発秘話をお送りする本連載。第8回は、ロボティクス技術で義足をより使いやすいものに変革しようと研究開発を行うBionicMを紹介する。自身も義足を使用する同社CEOの孫小軍氏は、階段の昇降も容易く、かつ、服で隠す必要のない“カッコいい”デザインの義足を開発したいと意気込む。
オープン6年目を迎えた東京・秋葉原の会員制モノづくり施設「DMM.make AKIBA」で社会課題を解決しようと奔走するスタートアップを追いかける連載「モノづくりスタートアップ開発物語」。第8回は、モーターが内蔵された「ロボット義足」の製品化を目指している「BionicM(バイオニック・エム)」を取り上げる。同社 CEOの孫小軍氏に、開発の経緯などを聞いた。
BionicMによると、事故や病気などで足を切断せざるを得なくなった人は現在、日本国内だけでも約9万人に上るという。国によって下肢切断者の割合は異なるが、世界全体で見ると、義足を求める人の数は約1000万人に達する可能性がある。
しかし、一般的な義足は日常生活で不自由なく使えるようになるまでに、2〜3カ月のリハビリをしなければならない。また、動かすには自分の力が必要で、疲れやすい上、転びやすいという問題がある。
従来の義足のほとんどは、サスペンションの役割を果たすダンパーと、人間の重力を生かして力を伝えるバネの組み合わせでできている。このため、能動的に動こうとすれば、その度に体の重心移動を行わなければならない。例えば、階段を上がる際は膝関節を曲げる動作が必要になるが、このためには義足を付けていない足で階段を1段踏み込んで体を持ち上げ、義足側の足を同じ段に持ち上げるようにして動かないといけない。つまり階段を、決まった側の足で1段ずつしか上がれないのだ。
今の義足は体を支えることはできる。でも、“筋肉”のように自身の意思でもっと自由に体を動かせるようになればいいのに――。
孫氏はこうした思いを抱え、BionicMを率いて人の動きをアシストできる「ロボット義足」の開発に挑戦している。
幼いときに右足を切断した孫氏は、2011年に初めての義足を作って以来、さまざまな開発を経験してきた。2018年に会社を設立して開発スピードを上げ、2021年秋にも初の製品発売を予定している。
発売する製品はカーボン製で、曲面加工を施すことで人間のふくらはぎや足首を表現している。内部には人間の体の動きを感知する3種類のセンサーとモーターが入っており、階段などの段差があっても義足側の足を膝部分から持ち上げられるので、スムーズに動ける。
販売価格は未定だが、現在販売されているロボット義足の3分の1程度の300万円前後にしたいと孫氏は語る。
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