NICOBOの基本コンセプトとなる“弱いロボット”の研究開発を続けてきたのが、豊橋技術科学大学の岡田氏である。
岡田氏は「ハサミのような素朴な道具とわれわれ人間の関係性は面白い。ハサミは硬い刃を備えているが、自らでは紙やひもなどを切り刻むことはできない。われわれの手の中にあって初めて機能する。一方で、人間の柔らかい手は紙やひもなどを切り刻めないが、その手の柔らかさによってハサミを使いこなすことができる。つまり、お互いの弱さを補いつつ、その強みを引き出し合っており、どちらも幸せな関係だといえる」と説明する。
一方で、利便性を追求し、ハサミよりもはるかに高性能・高機能になった家電製品は完璧に仕事をこなすものの、われわれ人間は何も手を出せずやってもらうだけの立場になる。「○○してあげるシステム」と「○○してもらう人」という役割で線が引かれてしまうことで、「もっと早く」「もっと静かに」など要求がエスカレートしていく。「便利なものに囲まれているのに、その利便性がわれわれの傲慢さや不寛容さを生み出してしまう。そして、自分が生かされた感じがしない、幸せになれないという指摘が増えている」(岡田氏)という。
そこで、人とモノの関係性の回復に向けて岡田氏が研究開発に取り組んできたのが“弱いロボット”だ。どこか頼りないけれど、何だかかわいい、ほっとけないロボットの弱さや不完全さが、人の優しさや思いやりを引き出す。「なぜだかほっこりした気分になる」(同氏)。
その一例となるのが、岡田氏が開発したごみ箱ロボットである。このロボットはごみを拾い集めるためのロボットだが、そのための手や腕がない。岡田氏は「ただヨタヨタと動き回るごみ箱にすぎないが、ごみを集めるという意味において人を上手に巻き込むことができる」と強調する。今までのロボットは高い機能性により自己完結していたが、そのこだわりを捨てたこのごみ箱ロボットは、結果として人に手伝わせることでごみを拾い集めることができている。また、ごみ拾いを手伝った人も悪い気分にはならない。
このような弱いロボットと触れ合うと、なぜ幸せな気持ちになるのだろうか。岡田氏は強制されずに関わりたいときだけ関われる「自律性」、関わることで自らの強みや優しさが引き出される「有能感」、一人ではなくつながり合って一緒にいる「関係性」という3つの理由を挙げる。「自らの能力が生かされ、生き生きとした幸せな状態であるウェルビーイングが可能になる。これらのポイントを押さえてNICOBOの開発を進めた」(同氏)という。
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