どちらにおいても重要なのは、設計部門だけでなく、製造部門や品質保証部門、生産技術部門、検査部門といった上流工程から下流工程まで、それぞれの専門部署が参画して議論することです。設計部門が気付かなかった問題は図面に反映されず、後々に品質問題となります。事前に各部門が十分な協議をすることで、品質を満たす製品の図面を作成することができるのです。
製造段階の品質管理手法としては、工程FMEAがあります。これは生産ラインの「工程設計」を対象にしたFMEAです。工程FMEAでは生産時に起こり得る全ての故障モードを抽出し、不良を発生させない、流出させない工程を作り上げることを目的にしています。ライン、工程を明確化したうえで作業ごとにどのような機能があるのか、それがうまく機能しない場合(故障モード)はどのようなものかについて列挙します。例えば、熱処理工程で設備のセンサーが機能せず不具合を起こした場合、既定の時間の焼き入れがされず、焼き入れ深さが不足するといった具合です。
こうして抽出した事象に対し、影響度や発生度、検出度で点数をつけて評価を行い、本当に品質の守れる工程となっているかを検証するまでが工程FMEAです。設計FMEAと同様重要なのは、各部門が参加してそれぞれの専門性を踏まえ議論を行うことです。工程設計は通常、生産技術部門が行いますが各部門が事前に議論することで品質問題を未然に防ぐ工程を作り込むことが可能になります。
品質不具合の未然防止は極めて重要なプロセスなのですが、実際は十分に行われていない、形骸化していることがよくあります。以前、「マンホールのフタ問題」という言葉を目にしました。フタがずれていたマンホールに落ちた人を助けるとヒーローになるが、フタがずれているのに気づいてそっと直した人は何も感謝されないことから、リスクを未然防止すると未然防止されたことに気付かれないというパラドックスを指しています。大阪大学 データビリティフロンティア機構 ビッグデータ社会技術部門 教授の岸本充生氏による講演でこの言葉が出たそうです。
これは品質不具合でも同じことが言えます。品質不具合が起きた後の処置については緊急度が高いため、迅速に行われてリソースが割かれる一方で、未然防止は評価が難しく、おろそかになりがちです。十分な未然防止が行われて何も起きないことが一番ですが、緊急性が低くかったり重要度が十分に理解されていなかったりしたために未然防止に関する取り組みが適切に行われていないケースが多々あります。客先に提出するため、または工程監査で必要なために、これまで説明した品質手法を形式上実施し、検証結果を提示するといった場合もあるようです。
不十分な検証で不具合が多発し対症療法に追われることに比べれば、未然防止が機能すればかける労力は小さくすることができます。品質不具合未然防止を正しく機能させるためには、未然防止の正しい評価、それを機能させるトップダウンでの発信、各担当の理解が必要です。これまで日本が培って保っていた高い品質を守るためにも、今後は「未然防止」に十分力を入れていく必要があるでしょう。
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