2020年版ものづくり白書では、このダイナミック・ケイパビリティを実現するものとしてデジタル技術が有効だとしている。例えば、ダイナミック・ケイパビリティを実現するには、以下の3つが必要だとしているが、このそれぞれをデジタル技術を活用することで容易化できるとしている。
例えば、「感知」の領域ではIoT(モノのインターネット)などを含むさまざまな新たなデジタル技術により、新たな変化をデータとして容易に集められるようになっている。さらに「捕捉」では、こうしたデータをクラウド基盤などに収集し、AI(人工知能)などを活用して分析することで、状況の変化や影響範囲などをリアルタイムで正確に把握できるというものだ。また、これらを的確に把握することで、新たな状況に対し先手で企業の体制を変革させ対応を進めていくことができる。
ただ、こうした取り組みはCOVID-19だから初めて生まれた考えではない。日本の製造業においては、COVID-19以前から人手不足や働き方改革の流れの中でスマートファクトリー化やDX(デジタルトランスフォーメーション、デジタル変革)などの掛け声の中で進められてきたことである。これらの取り組みをさらに本格化させ、具体的に進めていくということが、企業変革力の強化につながっていく。
現在も各企業の中でこれらの方向性での取り組みは進んでいるが、データの収集範囲をより広く、深くし、デジタル化領域を広げ、さらにシステム間の連携を進めることで「自動化」と「リアルタイム性」を高めることが求められている。その中で必要なのが、デジタル技術に最適化した形で業務プロセスを変革していくということだ。
COVID-19への対策として2020年内に進められたのが、現行の業務プロセスを滞りなく進める体制作りだとしたら、2021年はダイナミック・ケイパビリティの考えも含め、今後も変化が日常化する中での体制をどうするかという話だと考える。
その中で、持続性のある業務プロセスを検討していく必要がある。そういう意味では製造業に根強く残る「現地現物現実」の考えをデジタル技術でアップデートしていく動きも本格化する見込みだ。製造業がモノを扱う以上「現地現物現実」の価値が最重要であることは変わらない。しかし、従来は、商習慣的に人が行くのが当然とされてきた中でも、人が行く必要なない部分など、見直せる部分はあるはずである。COVID-19では現実的に人の移動が制限され、これらを見直す動きも広がりつつあり、こうした「現地現物のバーチャル化」の動きは一気に広がりそうだ。
例えば、工作機械大手のDMG森精機では2020年7月に同社伊賀事業所内のショールーム「伊賀グローバルソリューションセンタ」をデジタルツインで再現したデジタルショールーム「デジタルツインショールーム」をオープンした。将来的にはデジタルツイン化された工作機械の情報を直結し、試加工の代わりとなるシミュレーション機能を充実させる方針を示している。さらに、DMG森精機では、工場に行かなくても工作機械の出荷前立ち会いができる「工作機械のデジタル立ち会い」サービスなどの開始しており、オンライン対応できる領域を拡大している。
DMG森精機 取締役社長の森雅彦氏は「将来的にはユーザーが素材データを入れると、デジタル空間でテスト加工を行い、そのシミュレーション結果などを得られるような仕組みを想定している。実際の加工については、デジタルデータだけでは確認できないような連結部の微妙な違いなど現実との差異の確認などにとどめたい。少なくとも約半分、可能であれば7〜8割の作業をデジタル上で行えるようにする」と将来像について語っている。
その他でも生産財メーカー各社がオンラインショールームなどの立ち上げを進めるなど「生産のデジタル化」についての取り組みは大きく広がりを見せている。COVID-19では、人の移動制限により、オンラインで量産立ち上げをせざるをえなかった製品なども数多く存在しており、デジタル技術を取り込んだ、新たなモノづくりプロセスを構築することが、2021年の大きなテーマとなるだろう。
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