独自メッシュWi-Fi技術がスマート工場で高評価、成長軌道描くPicoCELAの挑戦組み込み開発 インタビュー(1/2 ページ)

ベンチャー企業のPicoCELA(ピコセラ)は、Wi-Fiを網の目のように張り巡らせる「メッシュWi-Fi」の独自技術をさまざまな産業向けに展開している。同社 社長の古川浩氏に創業の背景や現在の事業展開を聞くとともに、工場のスマート化などで注目を集めるローカル5Gをどのように見ているかを説明してもらった。

» 2020年12月25日 10時00分 公開
[朴尚洙MONOist]
PicoCELAの古川浩氏 PicoCELAの古川浩氏

 無線通信技術の進化によって、これまでスタンドアロンで運用されてきた機器をネットワークに接続して新たな機能や価値を生み出すIoT(モノのインターネット)の市場が拡大していることは多くの方が実感しているだろう。

 それらの無線通信技術の中で最も代表的なのが無線LAN、Wi-Fiである。2000年代前半にノートPCのチップセットに機能が組み込まれることでWi-Fiの市場が形作られ、その後スマートフォンの標準機能となった。業界団体であるWi-Fiアライアンスによって、通信速度の向上をはじめとする技術革新も進んでおり、最新のWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)の通信速度は理論値で10Gbpsに達している。

 このWi-Fiを網の目のように張り巡らせる「メッシュWi-Fi」の独自技術をさまざまな産業向けに展開しているのがベンチャー企業のPicoCELA(ピコセラ)である。Wi-FiアクセスポイントやIoTゲートウェイ、エッジコンピュータ、ワイヤレスカメラなどのOS上に実装することによりWi-Fiのネットワーク範囲を容易に拡張できる「PicoCELA Backhaul Engine(PBE)」が同社の最大の特徴だ。

 PicoCELAの創業者兼社長でPBEの開発者でもある古川浩氏は「PBEは、携帯電話通信技術で重要度を増しているスモールセルの技術を取り入れたメッシュWi-Fiだ。ソフトウェアベースの技術であり、ソフトウェア階層で言えば第2層のデータリンク層と第3層のネットワーク層の間に入ることになる。これにより、Wi-Fiの進化に合わせてPBEを用いたメッシュWi-Fiも進化する」と語る。

PBEはソフトウェアベースの技術 「PicoCELA Backhaul Engine(PBE)」は第2層のデータリンク層と第3層のネットワーク層の間に入るソフトウェアベースの技術である(クリックで拡大) 出典:PicoCELA

Wi-Fiであればスモールセルを容易に導入できる

 現在はWi-Fi技術を活用するPicoCELAの事業をけん引している古川氏だが、NEC在籍時には3G(IMT-2000)の世界標準策定チームのコアメンバーを務め、基地局間協調サイトのダイバーシティーを考案するなど携帯電話通信技術を専門に取り扱っていた。古川氏は「3Gの世界標準策定に携わっていた2000年ごろ、まだ伝送速度が2Mbps程度だったWi-Fiについて隣の部署で扱っており強く興味をひかれた。既に携帯電話通信技術でもスモールセルのコンセプトが必要になっており、さまざまな技術的な検討がなされていたが、実際に導入するにはハンドオーバーやセルマネジメントなどで標準化すべき項目が極めて多かった。しかしWi-Fiであればオープンソースソフトウェアなどを組み合わせれば、携帯電話通信技術よりもはるかに容易にスモールセルを導入できるのではないかと感じた」と説明する。

 2003年にNECを退職してからは、九州大学でPBEの基となるスモールセルを生かしたメッシュWi-Fi技術に関する研究に専念し、2007年からは実用化に向けて外部資金を活用した実用化開発に着手した。それらの技術の事業化を目指して2008年8月に創業したのがPicoCELAである。「PBEがソフトウェアベースの技術であることもあり、当初はライセンスビジネスを志向したがあまりうまくいかなかった。そこで、自社でハードウェアを開発した後、博多駅近くにある複合商業施設の『キャナルシティ博多』に設置した200台のメッシュネットワークを用いたフリーWi-Fiの実証実験で採用され、技術を蓄積していくことができた」(古川氏)。2011年にも、同じく博多の天神地下街でフリーWi-Fiのプロジェクトに採択されている。

現在製品展開している無線LANアクセスポイント「PCWL-0400シリーズ」 現在製品展開している無線LANアクセスポイント「PCWL-0400シリーズ」。電源さえあればWi-Fiネットワークを構築できる(クリックで拡大) 出典:PicoCELA
PicoHUB station 屋外無線LAN親機「PicoHUB station」は電源も内蔵しているので即設置、即撤収できる

 ここまで順調に見えるPicoCELAの事業展開だが、事業規模の拡大には苦心していた。古川氏は「PicoCELAとしては、都市全体の通信ネットワークをWi-Fiでカバーすることを目標に活動を続けていたが、やはり資本も知名度もないベンチャー企業が事業をスケールさせることは容易ではなかった。そこで、2018年に第2創業として、大学での研究と並行するのではなく、PicoCELAの事業経営一本に絞ることにした」と述べる。本社も、福岡市から東京に移し、注力する産業分野も「工場と倉庫」「建設」「イベント」「大規模施設」の4つに絞り込んだ。

 第2創業で最初に強い引き合いがきたのが「工場と倉庫」だ。2015年ごろから製造業におけるIoT活用に注目が集まるとともに、工場のスマート化に向けた通信ネットワークの無線化への需要は高まり続けている。「電源さえあれば、無線ネットワークを短期間で導入できる。LANケーブルの敷設が不要なので、そのためのコストも削減可能だ。EMC(電磁両立性)対策も取っており、高い評価が得られている」(古川氏)という。そして、製造業と同様にIoT活用を進める「建設」からの引き合いも伸びてきている。

 今後は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が収束した後に「イベント」や「大規模施設」からの需要にも期待を掛けている。古川氏は「第2創業から毎年倍増のペースで受注が伸びている。何より以前と異なるのは、当社への指名で案件が来るようになったことだろう」と強調する。

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