スマート工場で成果が出せない現場で見過ごされがちな「データ活用の前準備」いまさら聞けないスマートファクトリー(4)(2/3 ページ)

» 2020年12月21日 07時00分 公開
[三島一孝MONOist]

データを活用するその手前に存在する大きな壁

 さて、前回のやりとりを受け、設計部門と話し合いを進めた矢面さんが、その報告に来たようです。

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印出さん、こんにちは。


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矢面さん、こんにちは。その後、設計部門との話し合いは進んだの?


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そうなんです。今日は1つはその話をしようと思って来ました。それが、非常によい感じで話ができるようになったんです。


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具体的には、どういうことを話したの。


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なかなか、当事者同士では話も通じなかったので、第2回での話のように、専務に入ってもらって、設計部門も含めてモノづくりの将来の在り方についての理想像やロードマップについて話すことができました。そうすると、設計から製造まで一体化したモノづくりでリードタイムを抜本的に減らしたいなど、一緒に進めたい目標なども次々に出てくるようになったんです。


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それは素晴らしいわね。


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そうなんです。私も今まで設計側がどういう考えやアイデアを持っているのかを深く突っ込んで話す機会がなかったのですが、あらためて聞いてみると、あまり製造現場の発想だけでは思い付かないこともあってすごく参考になりました。システム面では既にいろいろ動きだしました。具体的に活動が見えやすい取り組みとしては、3Dプリンタなどデジタルファブリケーションの活用拡大についてのプロジェクトを進めることになりました。


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それは、本当に良い取り組みね。成果が出ることを祈っているわ。それで冒頭に「1つは」と言っていたけど、もう1つ目的があるということ?


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実は、そうなんです。エンジニアリングチェーンの連携や、部門間の連携については、徐々にですがうまくいきつつあるのですが、あらためて製造現場でいろいろ問題が出てきておりまして、お知恵を借りたいと思っているのです。


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何があったの?


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以前のアドバイスから、製造現場でもそれぞれの担当者にアイデアを出してもらい、スモールスタートでさまざまなIoT化への取り組みを数多く進めているのですが、データを集めるのはよいけれど成果が特に得られないという状況がほとんどで、現場の士気がとても下がっているんです。そこでどうしたらよいかと思いまして。


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なるほどね。1つ聞きたいんだけど、データを集めれば、すぐに活用できると考えていない?


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え、違うんですか?


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違うわよ。「データを集める」と「データを活用する」の間には、「データを(使えるようにするために)整理する」という作業が必要なのよ。それを見逃しているんじゃない。


 IoTやスマートファクトリーといえば、センサーを通じて「事象をデータ化」し、それをIoTで「収集」して「蓄積」し、それを「活用」することで、知見を現実世界にフィードバックするものだとよく説明されています。そこで、データを集めれば、そこからすぐに活用できるものだと勘違いしている場合も多いのですが、実はデータを「使えるようにする」には、多大な労力が必要です。具体的には「データクレンジング」と呼ばれる作業が必要となります。

 これは、得られたデータの中から、重複や誤記、欠損を修正し、分析が行えるような形に変換していく作業となります。製造現場の機器は、基本的には機器単体のログを管理するためにデータ化を行うケースが多く、複数のメーカーや複数の機械を組み合わせてデータ活用をすることが想定されていないケースがほとんどです。そのため、各機器からデータを仮に集めたとしても、データ項目の不一致が生まれ、変換して合わせる必要が出てきます。また、現場の環境によってデータの欠損が生まれるケースが多く、サンプリングレートが異なるケースもあります。

 データを分析するには、基本的には土台となる項目や粒度が一致していることが求められます。逆にこうした項目を一致させていなければ、正しい知見を導き出すことは不可能です。データ活用がうまくいっていない企業は、この「データ準備」や「データ整理」の難しさについて理解していない場合が多くあると考えます。「データを集めればすぐに成果が出ると思っていたのに、期待と異なる」と「がっかり感」につながるパターンです。また、不ぞろいで不十分なデータを、一定の項目で一致させていくという作業の多くが人手によるもので、それが非常に大変で挫折するケースもあります。こうした認識を最初に深めておくことが「期待値調整」の意味でも必要だと考えます。

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