多くの企業は、仕入れや販売といった取引を通じ、他社との関係性を構築しながら事業活動を行っており、取引における交渉力の優劣は中小企業が最終的に獲得できる付加価値額を大きく左右する。そのため、中小企業白書2020では中小企業が最終的に獲得できる付加価値額を増やしていくためには、優位性を顧客に発信していく取り組みや価格競争からの脱却、発注側事業者との取引条件の改善が重要になると述べている。
販売価格の上昇率と仕入れ価格の上昇率の違いから、仕入れ価格の上昇分をどの程度販売価格に転嫁できているか(=価格転嫁力)を数値化した「価格転嫁力指標」について、製造業における価格転嫁力指標上昇率の推移を企業規模別に見ると、バブル崩壊後から中小企業と大企業の価格転嫁力の格差が拡大していき、2008年のリーマンショック時にその格差はピークとなっている(図30)。その後、緩やかに両者の格差は改善傾向にあるものの、一貫して中小企業の価格転嫁力が大企業を下回る傾向は現在も続いている。
製造業における中小企業と大企業の一人当たり名目付加価値額上昇率とその変動要因を見ると、中小企業の実質労働生産性の伸び率は、総じて年率3〜5%程度となっており、大企業と遜色ない水準である(図31)。しかし、価格転嫁力指標の伸び率が、1995〜99年度以降、一貫してマイナスであるがゆえに、中小企業の生産性(一人当たり名目付加価値額)の伸び率が1%程度に低迷していることが分かる。
一般にB2C取引は市場取引により価格が決定されるのに対して、B2B取引は特定の取引先との交渉を行い、双方が合意することで取引条件が決定される。そのため、受注側事業者が価格転嫁を行うためには、発注側事業者との交渉の機会を持つ必要がある。図32は、発注側事業者に対する価格転嫁に関する協議の申し入れの状況と、実際の価格転嫁状況との関係を見たものである。これを見ると、「転嫁できなかった」と回答した企業のうち44.1%は、そもそも「発注側事業者に協議を申し入れることができなかった」と回答している。
他方「おおむね転嫁できた」又は「一部転嫁できた」と回答した企業については、大部分が協議の申し入れを行っている。また、価格転嫁ができた企業の特徴をみると、「提案力・企画力」に優位性が有ることが分かる(図33、図34)。
価格転嫁と投資活動の関係を見ると、価格転嫁ができていない企業ほど、投資に必要な利益の確保ができておらず、投資に対して消極的である(図35)。
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