他社が製品を模倣した! とるべき法的アクションやリリース作成時などの注意点弁護士が解説!知財戦略のイロハ(8)(2/3 ページ)

» 2020年12月14日 15時30分 公開
[山本飛翔MONOist]

差し止め請求だけなら仮処分の申し立ても選択肢に

 損害賠償請求はせず、差し止め請求のみを求める場合には、仮処分の申し立てもできます(仮の地位を定める仮処分、民事保全法23条2項)*8)。なお、同時である必要はありませんが、どこかの時点で本案訴訟を提起する必要もあります。

*8)これに併せて、侵害品の廃棄請求権(特許権侵害の場合は、特許法100条2項)を被保全権利とする、当該物品の執行官保管を求める場合がある。

 仮処分の場合、通常の訴訟と同様に権利が侵害されている事実、あるいは、侵害のおそれがあることが前提となります(被保全権利の存在)。その他、争いがある権利関係について債権者(=申立人)に生ずる著しい損害、または、急迫の危険(注:危険が差し迫っていること)を避けるため仮処分を求める状況である(保全の必要性。民事保全法23条2項)ことを明らかにする必要があります。

 ただ、実務上は、債権者が受ける損害の金額など具体的内容に踏み込んだ疎明(裁判官がある事実の存否について一応確からしいという心証を得た状態)がなくても、保全の必要性が肯定されているケースが多くあります*9)。例えば、特許権侵害差し止めの仮処分の場合、申立人が自ら当該特許発明を実施しており、その実施品と、相手方の債務者による侵害品との市場における競合関係が認められる事案などが、そうしたケースに該当します。

*9)大西勝茂「特許権の仮処分」高部眞規子編「特許訴訟の実務〔第2版〕」(商事法務、2017年)309頁。

 以下では、仮処分のメリットとデメリットをご紹介します。

メリット(1):迅速な差し止めの執行可能性

 通常訴訟では、一審で勝訴しても、相手方に控訴された場合はすぐに差し止め判決が執行できない場合も少なくありません*10)。一方で、仮処分命令が出された場合には、これを債務名義として(民事保全法52条2項)保全執行ができます(民事保全法2条2項、43条1項)。なお、債務者は、これに対して保全異議を申し立て(民事保全法26条)る他、保全異議の申し立てについて決定がなされるまでの間、保全執行の停止を求める申し立てを行えます(民事保全法27条1項)。ただ、実際問題として、執行停止が認められる例は想定しづらくはあります*11)

*10)判決のうち差し止め請求の容認部分については、仮執行宣言が付されるケースは損害賠償請求が認められるケースと比べて多くはない。これは、仮執行宣言に基づく執行を申し立てた場合であっても、相手方より執行停止の申し立て(民事訴訟法398条1項2号、民事執行法39条)がなされて、これが認められる例が多いからである。

*11)大西勝茂「特許権の仮処分」高部眞規子編「特許訴訟の実務〔第2版〕」(商事法務、2017年)311頁。

メリット(2):債務者の同意なく取り下げできる

 通常訴訟においては、相手方が弁論準備手続における申述、あるいは、口頭弁論を行った後は、相手方の同意を得なければ訴えの取り下げはできません(民事訴訟法261条2項)。これに対して、仮処分の場合には、債務者の同意なくいつでも申し立てを取り下げられます(民事保全法18条)。そのため、当事者間の交渉経過や審理経過を踏まえつつ、仮処分に対する判断が公になる前に取り下げることも可能です。

メリット(3):申立料が低額であること

 仮処分の申立ての費用は、一律で2000円です。申立料の負担が少ないことは、申立者にとってはメリットだといえるでしょう。

デメリット(1):立証活動の制限

 仮処分にはメリットだけでなく、デメリットをもたらす側面もあります。

 仮処分は民事保全手続きに基づいて行われるため、「即時に取り調べることができる証拠によって」疎明する必要があります(民事訴訟法188条)。文書提出命令の申し立てなど即時性を欠く手続きは原則不可とされています*12)。もっとも、手持ちの証拠で十分立証可能な場合は、この点は実質的なデメリットにはならないでしょう。

*12)なお、疎明における心証の程度には大きな幅があり得るとされており、知的財産権侵害を理由とする仮処分の場合には、通常の訴訟における証明に近い高度の疎明が求められるとされている(大西勝茂「特許権の仮処分」高部眞規子編「特許訴訟の実務〔第2版〕」(商事法務、2017年)304頁)。

デメリット(2):担保金の準備

 仮処分命令が発令される場合(差し止めを認める場合)、申立人はほぼ例外なく担保金を支払わなければいけません(民事保全法14条)。この担保金は、保全命令が結果的に違法であった場合に、債務者が申立人に対して支払うべき損害賠償金の担保とされています*13)。このため、通常は保全命令の発令から本案判決が見込まれる時期までに差止対象の行為により得られたはずの利益の額に応じて担保額が決定されます。担保額は、債務者の事業規模によっては億単位に上ることもありえます。

*13)後の訴訟で差し止め請求に理由がないと判断され、当該判決が確定した場合など。

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