エレベーターをメディア空間に、東大発スタートアップを悩ませた「通信問題」モノづくりスタートアップ開発物語(6)(1/2 ページ)

モノづくり施設「DMM.make AKIBA」を活用したモノづくりスタートアップの開発秘話をお送りする本連載。第6回はエレベーター内にプロジェクターを導入して、動画広告などを扉に投影するサービスを展開する「株式会社東京」を紹介する。プロダクト開発時、エレベーター内に動画広告を無線送信しようと試みた東京だが、エレベーターの筐体内は想定より通信状況が芳しくなかった。

» 2020年12月14日 14時00分 公開

 オープン6周年を迎えた東京・秋葉原の会員制モノづくり施設「DMM.make AKIBA」で社会課題を解決しようと奔走しているスタートアップを追いかける連載「モノづくりスタートアップ開発物語」。第6回は、エレベーター内に情報を映し出す新形態のメディア構築に取り組む「株式会社東京」(以下、東京)にスポットを当てる。にスポットを当てる。営業施策などの先頭に立つ同社 取締役である大塚雅也氏に、サービス設計の経緯や今後のビジネス展開について聞いた。

「株式会社東京」の大塚雅也氏

きっかけは大学エレベーター内の掲示板

 エレベーターに乗る。見知らぬ人も同乗する狭い空間。友人と一緒でもワイワイ会話をするのは気が引ける。ましてや現在のコロナ禍ではなおさらのこと。それならスマホを……と取り出してみるものの、目的の階まではわずかな時間。スマホを見るには短すぎる。だから、階数表示の数字をぼんやり眺めるだけでなんとなく手持ち無沙汰になる――。

 このスキマ時間を有効活用できないかと目を付けたのが、東京だ。

 2019年11月に三菱地所と合弁会社spacemotionを設立して、「エレシネマ」事業の運営などを行っている。エレシネマはエレベーター内に設置したプロジェクターで、扉にビルやマンションのお知らせ、企業広告などの映像を投影して映し出すというサービスである。プロジェクション設備の設置費は無料。これによって広く普及し、首都圏のオフィスビルを中心に、後述の「東京エレビ」を含めて、シリーズ累計約500台以上がエレベーターに導入されている(2020年10月末現在)。東京は扉に映し出す映像の広告掲載料で収入を得るというビジネスモデルだ。

エレシネマのサービスイメージ。扉部分に天気予報の映像を投影している*出典:東京[クリックして拡大]

当初はホワイトボードを設置する「アナログな方式」を構想

――ビジネスを始めるきっかけは何だったのですか。

大塚雅也氏(以下、大塚氏) 当社の代表取締役である羅悠鴻(ラ・ユウホン)の着想が始まりです。当時、羅は東京大学大学院で地球物理学を専攻していたのですが、ある時「キャンパス内の掲示板はほとんど見ないのに、学内のエレベーター内にある掲示板はよく見ている」ということに、ふと気付いたそうです。

 そこで、自分が住んでいた集合住宅のエレベーター内に住民用の掲示板を作ってみました。すると、住民の間で掲示板を起点にした交流が始まりました。それを見た羅は「これはビジネスとしてイケる」という感覚を持ったようで、エレベーター内空間をターゲットとした事業構想を練り始め、就職活動を止めて大学を休学しました。2016年10月のことです。その後、私は大学で同じサークルだった羅に誘われる形で2017年の夏にジョインしました。

――起業当時からプロジェクターを用いた掲示板を事業展開する、という構想はあったのですか。

大塚氏 最初の頃はそうではなかったようです。羅はエレベーター内をリノベーションして、壁をホワイトボード化するなどして掲示板機能を持たせる事業を考えていたそうです。

――現在とはかなり違う、「アナログ」な方式ですね。

大塚氏 方向性が変わったのは2017年2月、羅が会社を始めてDMM.make AKIBAに入居した頃のことです。羅の大学1年生のときのクラスメート、熊谷剛(現在東京のCTO)が訪ねて来て、「エレベーター内に専用のタブレット端末を取り付けたらいいんじゃない?」と言ったことがきっかけになりました。

 タブレット端末の無線通信機能を使えば、建物内だけでなく、もっと幅広い形のコミュニケーションが実現できる。そう感じた羅は、一気にアクセルを踏み込んで「アナログ」な掲示板から「デジタル」な掲示板へと、事業の方向性を転換したようです。

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