製造業のDXに必須となるクラウドアプリケーションの2つ目の条件は「常に最新のプログラム運用が可能である」という点です。
オンプレミス製品の場合は、ベンダー側がソフトウェアのバージョンアップを行う度に、GAP要件対応として行ったアドオン開発(ソースコードレベルの変更&追加)で生まれたユーザー単位の固有の機能に対する追加開発が必要になり、膨大な保守コストが発生するというデメリットがありました。
クラウドアプリケーションの場合は、クラウド側に置いたアプリケーションを更新すれば常に最新のプログラムが提供可能です。そうすると「個々のユーザーニーズに対応した機能が搭載されないのではないか」と考えるかもしれませんが、これを回避するために必須の機能が次の条件として紹介する「Low-code開発(ローコード開発)」です。
Salesforce.comや、AWS、Googleを始めとしたプラットフォーマーはローコード開発環境を積極的に提供しています。ローコード開発とは、従来プログラマーなどの専門技術者がコンピュータ言語(C言♯、Java、Visual Basicなど)を使用して開発する必要があったプログラムを、複雑なプログラミングなしに開発できるようにしたプラットフォームのことを示します。主にクリックだけで新たな機能追加などが可能となります。ローコード開発は新しい技術で日々進化しています。
ERP(Enterprise Resource Planning)システムをはじめ多くの業務管理アプリケーションでは、機能変更や追加(最も簡単なものは帳票書式変更でしょうか)が必要になるものがほとんどです。しかし、クラウドアプリケーションとして常に最新のバージョンを提供するということを考えると、個々の細かいニーズに応えたパッケージシステムを構築することは不可能で、こうしたニーズに対応するには個別の開発が必要になります。ただ、これをベンダーが対応するのは難しいため、ユーザー側が簡単に個別開発をできるようにしました。ここで活躍するのがローコード開発です。ローコード開発は、オリジナルのプログラムを変更せずに、機能変更や追加が簡単に実現できることが最大の利点であり、「条件2:常に最新プログラム運用」を実現するコア技術だといえます。
これからのシステム構築は、基幹システムであるERPだけではなく、周辺アプリケーションをいかに効率よく選択し、運用できるかにかかっているといえます。今までのようにシステム企画から構築まで数年を費やすようなスピード感では、競合関係が厳しくなる市場環境では通用しなくなることは明白です。企業としての優位性を高めるには「SaaS+クラウドアプリケーション」を前提に考えることが重要です。同一プラットフォームにある業務アプリケーションを組み合わせることにより、短期間に効率よくシステムの構築や拡張を図ることが出来ます。
現在は各プラットフォーマーが提供する製造関連のアプリケーションはまだまだ選択肢が限られています。ただ、SAPとオラクルという2大ERPベンダーが既にオンプレミスからクラウドへとビジネスモデルの中心を移行させることを表明しており、それに伴い、これらのシステムと連携する製造関連業務アプリケーションのクラウド化も本格化すると筆者は推測しています。そして、その時はすぐそこまで来ていると考えます。
栗田 巧(くりた たくみ)
Rootstock Japan株式会社代表取締役
【経歴】
1995年 マレーシア・クアラルンプールにてDATA COLLECTION SYSTEMSグループ起業。その後、タイ・バンコク、日本・東京、中国・天津、上海に現地法人を設立。製造業向けERP「ProductionMaster」と、MES「InventoryMaster」の開発と販売を行う。
2011年 アスプローバとの合弁会社Asprova Asiaを設立。
2017年 DATA COLLECTION SYSTEMSグループをパナソニックグループに売却し、パナソニックFSインテグレーションシステムズの代表取締役に就任。
2020年 クラウドERPのリーディングカンパニーRootstockの日本法人であるRootstock Japan株式会社の代表取締役就任。
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