本連載では知財専門家である弁護士が、知財活用を前提とした経営戦略構築を目指すモノづくり企業が学ぶべき知財戦略を、基礎から解説する。今回は、製品発売後に機能改良などリニューアルを加えた場合、特許や商標などの知的財産面で留意すべき点を解説する。
連載第6回の前回は、他社との取引やアライアンスを開始するにあたって留意すべき点を紹介しました。今回は、実際に新製品をリリースし、ユーザーからのフィードバックを受けて製品改良を行うケースを想定して、知財の観点から留意点をご紹介いたします。また併せて、新製品を海外に展開していく場合に気を付けるべきポイントもご紹介いたします。
新製品を市場にリリースした後、ユーザーからのフィードバックを受けて製品を改良したり、カスタイマイズした上で異なる市場へ横展開したりするケースが考えられます。この場合によく問題となるのが、特許と商標に関する事柄です。
近年、企業ブランディングやイノベーション創出を重視する「デザイン経営」に注目が集まっています。この流れを受けて、使い勝手の良さなど、ユーザーの視点を製品に反映することの重要性がますます高まっています。そのため、新製品のリリース後、ユーザーの反応やフィードバックを踏まえて、機能の追加や改良などを行うことは、ユーザーの満足度を高める重要な手法の1つといえるでしょう。
しかし、当初市場にリリースした製品と異なる新たな機能追加や機能修正を行ってしまうと、市場投入前に行った特許出願の内容では、改良後の製品を保護できなくなるおそれが生じます。この時、ぜひ意識していただきたいのが、国内優先権(特許法41条1項)の活用です。国内優先権を使うことで、出願時を基準に新しくリリースした製品の新規性や進歩性を判断してもらいつつ、改良結果を特許で保護することも可能となります。
ただし、国内優先権は当初の出願から1年の間に使う必要があります。製品発売から1年後に改良する場合には、当初出願時の明細書に記載した範囲内で、という制約は掛かってしまうものの、分割出願(特許法44条)の活用が考えられます。または、常に少なくとも1つの出願を審査に係属させ続けておき(分割出願)、特許化後に将来の変化に対応させて権利内容を変更したり、場合によっては出願戦略そのものを転換したりする選択肢もあり得るでしょう。
ユーザーのフィードバックを踏まえた機能追加や新製品、サービスの展開後には、新たに出願すべき商標がないかをチェックすべきです。
例えば、改良後の新製品に新たな商標を使用する場合には、当初の商標出願で新商標も守れるか、守れない場合には新たな商標出願を追加する必要があるかを検討すると良いでしょう。仮に新たな商標を追加しなくても、新製品を改良して異なる市場に横展開する場合は、指定商品や指定商品役務の漏れがないかを、出願済みの商標についても確認する必要があるでしょう。
当初の商標出願における指定商品や指定役務でカバーされてない状態だと、新たに進出する市場において、商標使用の法的な権利が確保されません。また、他社による同一、または類似の商標の使用を止められないこととなり、自社の新製品のブランディングにおける大きな支障になりかねません。忘れがちな点ではありますが、既存の商標出願の内容の見直しも重要です。
新製品を国内市場で発売後、あるいは同時に、海外市場に進出する場合もあります。この場合、新製品の発売前に日本国内で特許や商標などの出願をするだけでは、権利の確保が不十分なものになるおそれがあります。
特許権などの知的財産権は、その成立、移転、効力などは当該国の法律によって定められ、効力は当該国の領域内においてのみ認められます(属地主義の原則*1))。そのため、海外進出時には海外の競合他社と戦っていくため、当該進出国における知的財産権を取得する必要があります。
*1)この点が問題となった判例として、カードリーダ事件における最高裁判所の判決(平成14年9月26日民集56巻7号1551頁)などがある。
注意点もあります。特許取得時の新規性の要件は、海外地域で発表されたプレスリリースや論文の内容など、全世界の資料を含めて判断されます。このため「新製品の日本市場での売れ行きを見て、海外で出願の必要性を検討しよう」といった戦略を取っていると、いざ出願しようと思っても「既に日本国内で同内容の製品が展開されており、新規性がない」と判断されて、特許権が取得できない事態になりかねません。また、商標権について先願主義を採用している国では、先に他社に商標権を取得されてしまい、当該国で自社の製品名が使用できなくなるおそれもあります。
従って、早い段階から、海外における各種知的財産権取得のため、戦略を練り、各種手続きに着手する必要があります。次ページでは、よく問題となる特許および商標について、具体的な手続きを紹介します。
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