―― OZO Audioはそもそも、360度の空間音声を収録する技術がベースにあります。しかしこの空間音声をスマートフォンなどのスモールデバイスではうまく再生しにくいという限界があると思います。この再生に関して、OZO Audioとセットで開発した技術などはあるんでしょうか。
豊田 今世に出ているのは収録系の技術がメインになりますけど、実は私たち再生系の新しい技術として「OZO Playback」の提案を始めています。例えばスマートフォンであれば、イヤフォンやヘッドフォンで音声を聞くユースケースが多いと思うんですね。そこで、ヘッドフォンで聴いても本当にスペシャルな空間音声を再生できるようにした技術がOZO Playbackです。
もちろん、スマートフォンやタブレット端末のスピーカーでそのまま聞くという方もいらっしゃると思います。この場合、どうしても物理的にスピーカー間の距離が狭いので、ステレオイメージも小さくなってしまう。これを物理的な距離を超えてよりワイドに、広域で聞こえるようにする「ステレオワイドニング」という技術も、OZO Playbackのステレオ版の方にはあります。
―― なるほど。OZO Playbackを搭載した製品はありますか。
豊田 当社から技術を提供可能という段階で、現時点では搭載製品は発表されていません。来たるべき時には、採用企業様からアナウンスがあると思います。
―― オーディオって、マイクもスピーカーもアナログ技術なので、普通の人にはなかなか扱いが難しいところだと思います。それが、OZO AudioやOZO Playbackのような録音・再生技術の進化によって、また一段動画コンテンツを作るモチベーションが上がりそうですよね。
豊田 そうですね。採用企業の皆さまにはインタフェースなども工夫して作っていただいており、本当にパッと録っただけでもこんなに臨場感のある音が誰でも録ることができるんだよ、というものに仕上がっていると思います。そういう意味では、最終ユーザーの皆さまの音声技術リテラシーというのも上がっているのではないかと思っています。
映像がどんどんきれいになる中で、音声についてもよりよいものを残したいという要望はこれまでもあったんですよね。それに対して、ようやく当社の技術をご提供できるようになったのかなと思います。
スマートフォンの新製品が出るたびにフォーカスされるのは、ほとんどがカメラ性能だ。しかし、動画を撮影することが多くなっているにもかかわらず、マイク性能について言及されるケースはほとんどない。またスマートフォンの本体もアナログ端子を排する傾向にあり、マイクを外付けするのも難しくなっている。
そんな中、本体だけで音声収録するのであれば、指向性のあるマイクの技術がどうしても必要になる。そこに5年前に開発されたOZO Audioがぴったりハマった。開発したのがノキアであり、スマートフォンメーカーと立ち位置が近いというところも採用が増えた要因であろう。
一方で、一般的なデジタルカメラの搭載例が出てきたことは、小さくない変化だと思う。ビデオカメラというものが市場から消えつつある中、映像と同時に音声を録るデバイスとしては、デジタル一眼は決して十分な性能を持っていなかった。そんな中でパナソニックのG100におけるOZO Audioの実装は、今後のレファレンスとなりそうだ。
さらに将来的には、サラウンドで集音しておき、後で画面タッチで音を抽出して複数の音声トラックを得るということもできそうである。例えば、2人の掛け合いによるトークをワンポイントで録音しておき、後からそれぞれの音声バランスを決めるといった利用もあり得るだろう。
映像は後処理でかなりのことができるようになってきたが、音声の後処理はまだまだ伸び代がある分野だ。OZO Audioの登場により、これまでは理想論だった音声処理が現実のものになる日も近い。
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手掛けたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.