高崎デジタル化PJにおける1年半の取り組みで得られた最も大きな成果は、プロジェクトの2つの目的のうち「モニタリング」の業務をExcelデータのDB化によって簡素化できたことだ。ただしここで重要だったのは、Excelの利用を止めるのではなく「Excel内でできることはExcelでやる」というコンセプトを採用したことだった。武内氏は「既存のExcelの入力フォームに対してExcelの関数で別シートに構造化しておくことで、後続のETL処理の複雑性を回避し、開発期間の短縮につなげられた」と強調する。また、データ入力を慣れ親しんだExcelベースにすることで、現場側でさまざまな小回りが利くことも重要な要素だった。
なお、今回のDataHubの構成では、KNIMEを用いたETLが重要な役割を果たしているが、その構築について協和キリン内で実績がなかったため、サポートベンダーであるビジネスエンジニアリングに完全委託した。
また、2020年5月から稼働したMESやLIMSとの連携については、先行してDB化を進めていたExcelデータとコードや項目名が異なることもあり、読み替えのための変換マスターを用意する必要があったが、これにはかなり苦労したという。
プロジェクトのもう1つの目的である「予測」については“現在進行中”という状況だ。予測を行うためにのAIとしては機械学習自動化プラットフォーム「DataRobot」の活用と、画像の活用という2つの手法で取り組みを進めている。「モニタリング」ほどの短期間で結果が出ていない理由としては、AIの適用対象となる生産物のバイオ医薬品の生産期間が1ロットで2カ月とかなり長期にわたることが背景にある。
ただし、DataRobotを用いたバイオ医薬品の基になる細胞の生産性の予測については一定の成果は得られている。「現時点では外れ値を拾い切れていないので、まだ改良の余地があるだろう」(武内氏)。画像AIの活用では、増殖率の高い細胞を選び出す取り組みを進めたが、現時点では選別による有意な差は出ていないという。
製造プロセスにおける専門家や熟練者の技術伝承については、目視による検査を行っている品質試験を対象にした取り組みを進めている。生産物の中にある異物の画像データを数値化しDataRobotによる機械学習も活用することで一定の成果が得られているとする。
高崎工場では、今後もさまざまなデジタル化の取り組みを進めていく方針だ。まずAI活用では、テーマ選定を重視しながらAIに関数る経験値を高めていく考え。また、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などのxR技術の活用もテーマに挙がっており、リモートでの技術移管やトレーニングなどへの適用を想定している。武内氏は「もちろん、高崎工場で得た知見を他拠点に展開していくことも重要な役割だ」と述べている。
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