血液適合性ポリマーの高靭性化と3Dプリンティングに成功医療機器ニュース

名古屋大学は、血液適合性ポリマーとして知られるPoly(2-methoxyethyl acrylate)(PMEA)の高靭性化成功した。また、光造形式3Dプリンタを利用して、任意の形に加工することができた。

» 2020年10月20日 15時00分 公開
[MONOist]

 名古屋大学は2020年10月5日、血液適合性ポリマーとして知られるPoly(2-methoxyethyl acrylate)(PMEA)の高靭性化と、任意の形への3Dプリンティングに成功したと発表した。同大学大学院工学研究科 准教授の竹岡敬和氏らの研究グループと、ユニチカの共同研究による成果だ。

 PMEAは優れた血液適合性を持ち、水溶性が低い次世代の血液適合性材料として、ECMO(体外式膜型人工肺)などの血液と接触する医療器具に利用されている。しかし、体温以上の環境下では柔らかく粘着質で、成形加工が困難だった。

 今回の研究では、PMEAに直径約100nmのシリカ微粒子を充填することで、高い靭性を備える複合エラストマーを作製することに成功。この複合エラストマーは、シリカ微粒子の充填量の増加に伴って破断応力と破断ひずみが向上し、破壊エネルギーはシリカ未充填のPMEAに対して約15倍向上した。

キャプション PMEA(左)と複合エラストマーの伸長変化(右) 出典:名古屋大学
キャプション a:さまざまなシリカ含有量の複合エラストマーの応力-ひずみ曲線。b:aの結果を基に得た複合エラストマーの破壊エネルギーのシリカ含有量依存性 出典:名古屋大学

 また、血液適合性を確認するため、血小板粘着性試験を実施した。その結果、この複合エラストマーの血小板粘着性は、PMEAと大きな差がなく、PETよりも血小板の付着抑制に優れていることが示された。

キャプション さまざまなシリカ含有量の複合エラストマーの血小板粘着性試験結果 出典:名古屋大学

 この複合エラストマーを一般消費者向けに普及している光造形(SLA)式3Dプリンタを用いて加工したところ、複雑な形状に成形できた。

キャプション SLA式3Dプリンタで作製した複合エラストマーの各種造形物 出典:名古屋大学

 これらの成果により、入手が容易で人体に安全な材料から、自由な形状を造形できる可能性が示された。実用化に向けてさらに検討が必要ではあるものの、従来よりも小さな直径の人工血管など、血液適合性が必要とされる医療器具の開発に有用な材料になることが期待される。

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