新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大で大きな影響を受けた物流業界。これまでもデジタル化の後れを指摘されてきたが、COVID-19の終息後に向けた革新につなげられるような恒久的なデジタル化施策を進められるのだろうか。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大は世界全体、社会全体に大きな影響を与えている。製造業もその例外ではなく、世界各国での都市封鎖によりサプライチェーンが深刻なダメージを受けたことは記憶に新しい。感染者数が減少し、都市封鎖が解除されたこともあってCOVID-19による影響は当初より小さくなっているように見えるが、実際には新たな日常となる「ニューノーマル」に向けた変化が起こり始めている。
サプライチェーンを構成する重要な要素である物流についても、COVID-19の前後で大きく変化している。もともと国内の物流市場は、Eコマースの拡大によって小口、多頻度、時間・場所指定などニーズが高度化しているところに、生産人口の減少による労働力不足で物流ドライバーの労働環境の悪化などが起きていた。これらの課題を解決すべく、IoT(モノのインターネット)や、ビッグデータ分析、ロボティクスなどの先進技術の導入による物流革新が期待されていた。
しかし、物流革新による課題解決が図られる前に起こったのがCOVID-19の感染拡大である。緊急事態宣言の発出により、リアル店舗の販売量が急減する一方で、Eコマースの販売量は大幅に拡大し、売れ筋製品の大きさなどにも変動が起こった。また、これらと同時に、工場での製造が一時停止していたのだ。日立製作所 産業・流通営業統括本部 スマートロジスティクス営業部 部長の石鍋昌浩氏は「COVID-19の感染拡大期は分断と偏りが顕著に起こっていた。物流のうち輸配送の分野で言えば、トラックがあるのに荷物がない、ドライバーがいても荷物がない、モノがあり過ぎて運べないといったように、荷物、トラック、ドライバーの偏りが起きていた」と説明する。
COVID-19の感染拡大が落ち着いた現在も、消費財の需要が拡大し物流ニーズも旺盛な一方で、組立製造業の部品を扱う物流業者は運ぶモノがない状況にあり、分断と偏りは解消されていない。
また、感染拡大が鎮静化しつつある中でCOVID-19を前提に事業を再起動していく現在の物流業界の対策としては、一般企業と同様に、対面や接触の回避、オンライン化を志向している状況だ。伝票押印の簡略化や、3密を避ける現場オペレーションの工夫、オフィス業務をリモートワークに転換するための紙帳票からの脱却などだ。
デジタル化の後れを指摘されてきた物流業界だが、COVID-19の課題に直面することによって、一気にDX(デジタルトランスフォーメーション)が進もうとしている。ただし、「本来は、COVID-19前から求められてきた先進技術の導入による物流革新が必要だが、これについてはどこから手を付けるかまだ決められていない状況だ。例えば、3密回避、非対面、非接触を実現するには、その前に状態を把握するための見える化が必要だ」(石鍋氏)という。
そして、今後ワクチンなどの開発によって訪れるCOVID-19の終息後には、現在進められている暫定的な対策から、もともと目指していた物流革新をも視野に入れた恒久的な対策に進めていく必要がある。ここでいう恒久的な施策としては、オフィス業務でのRPA(Robotics Process Automation)活用による事務処理の自動化、倉庫内オペレーションへのロボティクスの導入、配送計画業務へのAI(人工知能)を導入による変化への柔軟な対応や自動化、配送オペレーションにおけるテレマティクス活用による動態管理のデジタル化、物流リソースシェアリングなどがある。これらデジタル技術を活用した物流の高度化に加えて、ビジネススキームの改革も進める必要がある。
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