変化の時代だからこそ、“違和感”を発信したい。
この記事は、2020年10月8日発行の「モノづくり総合版メールマガジン」に掲載されたMONOistの編集担当者による編集後記の転載です。
デジタルトランスフォーメーション(DX)に大きな注目が集まる最近ですが、今から約9年前にも“デジタル”に関する大きな盛り上がりがあったのを覚えていますか。そうです。地上波テレビ放送のデジタル化
です。従来アナログ方式で放送されていた放送波をデジタル方式に切り替えるために、基地局などの放送設備から一般家庭で使用されているテレビ受像機までを全て置き換えるというもので、2011年7月24日にアナログ放送が完全に停止されるまで、業界での対応が求められました。
この完全移行に向けてテレビの買い替え需要が大きな盛り上がりを見せ、直前となる2010年には薄型テレビの国内出荷は2519万3000台(JEITA)まで伸びました(2019年は486万7000台)。ある意味で「デジタル家電」の黄金期だったといえるでしょう。
こうしたことを急に思い出したのは、ここ最近こうした“黄金期”を象徴するような製造拠点の閉鎖のニュースが相次いだからです。東芝の深谷工場とパナソニックの岡山工場が閉鎖されたという話題です。筆者は以前、電機業界紙でまさにこうした“デジタル化”の動きを、放送局からテレビ受像機まで追っていたのですが、当時の大手電機メーカー各社は「テレビといえばここ」という拠点を持っており、東芝といえば深谷工場がまさにそうした拠点でした。また、パナソニックの岡山工場は据え置きVTRの製造工場として設立され、Blu-ray Discレコーダーや業務用AV機器の生産を行っていました。
今では既にこの他の電機メーカーでもテレビやデジタルAV製品に関連する拠点は次々と転用や閉鎖が進んでおり、テレビや家電製品が日本企業の大きな稼ぎ頭であったことや、世界でも日本メーカーが家庭の中心を担っていた時代があったことは“昔話”になりつつあるように感じています。
こうした状況を振り返ると「何がターニングポイントだったのか」や「何とかできなかったのかな」というようなことを考えてしまいます。筆者は当時もこれらの動きに関わるメディアの一員だったわけですが、取材先の各メーカーの担当者も、われわれメディアも、ここまで市場環境が激変して「日本の家電」が苦境に立たされるとは捉えられていませんでした。
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