Armはリアルタイム処理に対応するプロセッサコアIP「Cortex-Rシリーズ」の最新製品となる「Cortex-R82」を発表。従来比で最大2倍の性能向上を果たすとともに64ビットに対応し、MMUやベクトル演算処理器「NEON」を搭載するなど「Cortex-Aシリーズ」とほぼ変わらない機能を備えたことが特徴となっている。
Armは2020年9月3日、リアルタイム処理に対応するプロセッサコアIP「Cortex-Rシリーズ」の最新製品となる「Cortex-R82」を発表した。HDDやSSDなどストレージのコントローラーICに広く採用されている「Cortex-R8」の後継となる。従来比で最大2倍の性能向上を果たすとともに64ビットに対応し、MMU(メモリ管理ユニット)やベクトル演算処理器「NEON」を搭載するなど、アプリケーション処理用プロセッサコアIPである「Cortex-Aシリーズ」とほぼ変わらない機能を備えたことが特徴となっている。半導体製造のターゲットプロセスは16nm以降で、半導体メーカーへのライセンス提供時期は2021年初頭を予定。早ければ2021年後半にもCortex-R82搭載デバイスが出荷される見込みだ。
Armが展開するプロセッサコアIPのうち、Cortex-Rシリーズは、マイコン向けの「Cortex-Mシリーズ」やスマートフォンのプロセッサとして広く採用されているCortex-Aシリーズほどの知名度はない。ただし、ISO 26262やIEC 61508などの機能安全規格に対応する必要のある機器では「Cortex-R5」や後継の「Cortex-R52」が用いられている。
今回発表したCortex-R82が採用を想定しているのは、HDDやSSDなどのストレージのコントローラーICである。Armの日本法人アームで応用技術部のディレクターを務める中島理志氏は「ストレージのコントローラーICにおけるCortex-Rシリーズのシェアは実に85%に上り、数十億のストレージデバイスに組み込まれている」と強調する。
Cortex-R82は、Cortex-R8と比べてCoreMarkスコアで20〜30%、他のベンチマークであれば最大2倍まで処理性能が向上しており、後継製品として十分なスペックを有している。しかし、Cortex-R82に搭載された新機能は、今後のストレージデバイスの進化系となる「コンピュテーショナルストレージ」のコントローラーICを意識したものとなっている。
中島氏は「これまでのストレージは、MPUがコンピューティング処理するのに必要と判断したデータを求めるリクエストを受けて、格納しているデータをMPUに送った後、MPUのコンピューティング処理の結果を格納するデバイスだった。しかし今後は、MPUからの命令を基にストレージ側でコンピューティング処理を行うコンピュテーショナルストレージが求められるようになる」と説明する。
コンピュテーショナルストレージのメリットとしては、電力消費の低減や低レイテンシ、セキュリティ対応などが想定されている。その一方で、コントローラーICには、従来MPUで行っていたコンピューティング処理を行える機能が必要になってくる。「これらの機能は、サーバやクラウド上で運用されるアプリケーションをそのまま再利用できれば効率的だ。そこでCortex-R82は、64ビット対応とMMU搭載によって、ArmのLinuxエコシステムをほぼ全て利用できるようにした。これにより、サーバやクラウド向けのアプリケーションが活用可能になる。さらに、NEONを搭載することで、現代のコンピューティング処理で不可欠な機械学習なども行える」(中島氏)という。
また、ストレージネットワーキング技術の業界団体であるSNIA(Storage Networking Industry Association)では、コンピュテーショナルストレージのワーキンググループが発足しており、Armはその創立メンバーになっている。
なお、Cortex-R82は、アドレス空間が64ビットに拡張されることで、メモリの最大容量は1TBとなった。1チップに搭載可能なプロセッサコア数は最大8コアである。
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