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» 2020年08月05日 10時00分 公開

機械学習で販売計画の精度はどこまで向上できるか、人の意志決定は不要なのか製造業DXの鍵−デジタルサプライチェーン推進の勘所(3)(3/3 ページ)

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AIを活用した需要予測事例

 販売計画の精度向上を目的として、さまざまな方法がこれまで取り組まれてきた。代表的な方法として需要予測がある。需要予測手法は、大きく、(移動)平均法、平滑法、回帰法に分類される。そして回帰法は、統計的手法(単回帰、重回帰)と機械学習に分けることができる。ここでは、機械学習を活用した需要予測の事例を紹介する。

 機械学習はAI(人工知能)の一種であり、大量のデータの中から関連性を見つけ出し、発見した関連性(予測モデル)を使って、未知のデータから結果を予測することを目的とする。学習方法として、教師あり学習、教師なし学習、強化学習があるが、本事例では、教師あり学習が使われている。

 教師あり学習とは、準備データ(説明変数)に対し人間が結果(目的変数:教師)を与え、関連性を学習していく手法である。説明変数は予測に用いる入力値であり、目的変数は予測対象と捉えるとよい。需要予測における説明変数と目的変数の例を以下に示す。

  • 説明変数(例)
    • 販売実績数、プロモーションの有無
    • 製品特性、地域特性、経済指標
    • 気温、湿度
    • etc.
  • 目的変数(例)
    • 翌月の販売数
    • etc.

 このように、説明変数と目的変数の関連性を学習した予測モデルに対し、現在の最新情報を与えることにより、翌月の販売数を予測できる。

 図3は、販売計画担当者が経験に基づき立案している現行の計画の精度分布(左)と、機械学習を活用した需要予測の精度分布(右)を比較したものである。原理的に販売のボリュームが大きいものほど誤差率は低くなる(精度は高い)ため誤差率0%を中心にした正規分布になる(販売計画立案時に明らかなバイアスがある場合、正規分布の中心が左右にずれる)。

図3 図3 機械学習を活用した需要予測と現行計画の精度分布比較(クリックで拡大)

 本事例では、現行の計画においても恣意的なバイアスは見受けられないが、機械学習を活用した精度分布ではより中心に寄った分布となり、明らかに誤差率((実績−計画)÷計画))が小さくなっていることが分かる。SCMの観点からみた場合、誤差率がマイナスであることは、計画の方が実績より高く、計画に従って生産した場合、在庫が過剰になることを示している。また、誤差率がプラスであることは、実績の方が計画より高く、欠品を起こし販売機会を損失する可能性がある。つまり、誤差率が小さい方が、過剰在庫や販売機会損失の低減につながるということである。

 結果として、現行計画に比べ機械学習の方が精度が高かったものは全体の約91%で、ケースバイケースで機械学習の方が精度が高かったり低かったりしたもの(学習を重ねることで高精度への可能性がある)は4%、残り5%は機械学習の方が精度が低かった。機械学習の精度が低かったものの多くは、学習するデータが少ない、または説明変数から予測できない突発的な需要があったものであった。

機械学習は人の意思決定をサポートする

 この事例における機械学習を活用した需要予測は、ほとんどの現行計画よりも精度が高い結果となった。ただし、実業務上においては、特徴を理解し使い方を明確にすることが必要である。

機械学習は人の弱い部分を補い、意思決定をサポートするものと位置付ける

 前述の通り、人の情報認知には量的、質的な限界があり、その後の意思決定にゆがみを生じさせてしまう。機械学習は情報の関係性を冷静に見極めており、膨大な情報から人が発見できない情報の関連性を発見できるといった点では、人より優れているといえる(ただし、インプットとなる情報の量や質に左右されるため、注意が必要である)。

 そういった特徴を生かしながら、人が見誤りがちになる直近の販売計画は機械学習に任せ、中長期の計画を人が意思決定するという使い分けや、機械学習での需要予測結果を提案値として参考にし、1つの意見として取り入れるといった使い方がある。また、SKUが多い場合には、精度を見極めながら機械学習の予測結果を使用するSKUと、人が計画立案するSKUを分けて分業しても良い。重要なのはAI、機械学習に全てを代替させるのでなく、“組み合わせ”ることだ。

継続的な予測モデル改善を機械学習に任せる

 機械学習は、学習を続けること(予測モデルの最新化)によって、ビジネス変化を検知し、常に環境変化へ追従できる可能性がある。販売計画の精度向上の取り組みは、継続的に行われず一時的な取り組みであることが多い。例えば、統計的手法を用いた需要予測を活用している場合、取り組み当初の予測精度は良いが、継続的な改善が行われないため、予測モデルを古いまま使い続け、気が付けば精度が悪化しているということが多々ある。改善しようとしても、当初の予測パラメータがなぜそのようにできているのか伝わっておらず、工数を使いゼロからやり直すということの繰り返しである。



 販売計画精度向上へのデジタル技術の活用は、SCMにおける本質的DXへ向けた1つの入り口と捉えることができる。あくまでも入り口であり、そこから取り組みを波及させる必要がある。次回は、取り組みを波及させるポイントを事例とともに紹介する。

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筆者プロフィール

宍戸徹哉(ししど てつや) クニエ シニアマネージャー

大手国内システムインテグレーターにてSCM関連システム構築に従事し現職。ハイテク・エレクトロニクス、自動車、ヘルスケア、非鉄金属、建設、化学、製薬業界など、サプライチェーン分野のコンサルティングに従事。

主に、SCM/S&OP業務改革、組織改革、ITを活用した改革構想および導入を担当している。

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筆者プロフィール

笹川亮平(ささかわ りょうへい) クニエ マネージングディレクター

ハイテク機器、自動車など組み立て系、プロセス系製造業の企画構想から定着化まで生産管理、在庫管理、需給管理を中心としたSCM/S&OP業務改革、ERP/SCP構想策定および導入コンサルティングに従事している。

編著に「“数"の管理から“利益"の管理へ S&OPで儲かるSCMを創る!」がある。

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