学習なしでキズを抽出、外観検査自動化に貢献するAI機能搭載画像処理システム製造現場向けAI技術

オムロンは2020年6月29日、製造現場における外観検査の自動化に貢献するため、「キズ抽出」と「良品判定」の2つに特化した学習済みAI機能を搭載した画像処理システム「FHシリーズ」を同年7月1日から発売すると発表した。

» 2020年06月30日 07時00分 公開
[三島一孝MONOist]

 オムロンは2020年6月29日、製造現場における外観検査の自動化に貢献するため、「キズ抽出」と「良品判定」の2つに特化した学習済みAI(人工知能)機能を搭載した画像処理システム「FHシリーズ」を同年7月1日から発売すると発表した。

photo 欠陥抽出AIを搭載した「FHシリーズ」製品群(クリックで拡大)出典:オムロン

オムロン内で事前に特定分野の学習を実施

 労働人口減少や熟練技能者の引退などで製造現場における人手不足が深刻化する中、従来特に人手に依存していた検査工程では自動化が大きなテーマとなっている。ただ、外観検査についてはさまざまな色や大きさのキズの判別、良品自体が大きくばらつく場合の欠陥品の判定など、それぞれの現場やワークの条件が大きく異なる。そのためこれらに合わせた仕組み作りが必要になり、AIなどの先進技術を使おうとしても難しい状況が生まれていた。

 これらの課題を解決するためにオムロンが新たに発売するのが、事前に学習したAIを搭載したハードウェアである。具体的には、オムロンが30年以上にわたり外観検査の現場で培った画像処理と、検査内容そのものに対する知見を商品に組み込み、その知見を基に「デジタル製品」の「キズ抽出」に特化した形で学習させたAIを事前に画像処理システム「FHシリーズ」に搭載しているため、ユーザーが購入後に新たに学習をさせる必要なく、すぐに外観検査に組み込んで使用できる(※)

(※)関連記事:オムロンが2つのAI新技術、人の経験使い軽量化したAIと学習モデルを統合できるAI

 オムロン内の知見を生かして、キズの種類やさまざまな発生パターンを先に学習させている他、熟練検査員がノウハウとして持つ「背景状の違和感を欠陥とする見方」を技術化し画像フィルターとして搭載していることなども特徴である。学習はオムロン内で行い、ハードウェアには推論モデルのみを搭載するためAIそのものも軽量化が可能で、さらにAIに関する専門知識を持ったエンジニアがいなくても、製造現場での立ち上げや調整が可能となる。

 ただ、外観検査のあらゆる事象に対応しているわけではなく、今回は「デジタル製品の製造工程」と「キズ抽出」に特化したことで、ターンキー型のソリューションを実現できたという。「まずはデジタル分野とキズ抽出に特化することで学習なしでAI機能を提供することができた。今後は自動車業界や食品業界でも同様に対応できるようにしていく」(オムロン広報)としている。

photo 欠陥抽出AIによるキズ把握の様子(クリックで拡大)出典:オムロン

良品判定の誤検知を低減

 さらに「良品検査」の誤検知を抑制するAI技術なども搭載している。自動良品検査では通常、実際の不良品よりも厳しい基準を設けて不良品を通さないようにするケースが多い。しかし、基準を厳しくしすぎれば、良品であるにもかかわらず不良品になるものが多くなり、さらに不良品判定を受けたものを確認して良品に戻す作業は人手が必要で結果として作業が増えるケースが生まれている。

 そこで、オムロンでは、良品の一定のバラツキを許容するノウハウをAIで再現し、バラツキ要素を調整して復元し検査を自動化する機能を実現した。既に構築済みのAIモデルに「良品だが位置や向きなどがばらついた画像」を数枚用意して学習させる。これにより、良品のばらつきを学習させ、これらの要素を排除することで、不良品の誤検知を抑えることができるようになる。「試験的な導入の結果では過検出を40分の1に低減できた例もある」(オムロン広報)としている。

photo 良品のばらつきの様子と復元の様子(クリックで拡大)出典:オムロン

 これらの機能は新たに「FHシリーズ」を購入した場合でも、既に「FHシリーズ(5000シリーズ)」を使用しているユーザーが追加するケースでも利用可能。価格帯については基本的にはオープン価格だが「中小製造業でも気軽に導入できるような価格帯」(オムロン広報)としている。

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