オムロンが2つのAI新技術、人の経験使い軽量化したAIと学習モデルを統合できるAI製造現場向けAI技術(1/2 ページ)

オムロンは2019年11月13日、AI(人工知能)に関連する2つの技術発表を行った。発表したのは、FA領域で熟練者の経験を注入することでデータ処理量の軽量化を実現した「欠陥抽出AI」と、学習モデルを統合することでデータを集約する負担を軽減する「Decentralized X」である。

» 2019年11月14日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

 オムロンは2019年11月13日、AI(人工知能)に関連する2つの技術発表を行った。発表したのは、FA領域で熟練者の経験を注入することでデータ処理量の軽量化を実現した「欠陥抽出AI」と、学習モデルを統合することでデータを集約する負担を軽減する「Decentralized X」である。

官能検査を置き換えるAI

photo オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 商品事業本部 センサ事業部 第2開発部 部長の竹川肇氏

 「欠陥抽出AI」は、製造現場において従来は人の感覚に頼っていた「官能検査」をAI活用により置き換えることを想定したものだ。

 官能検査は人の五感を活用した検査方法である。これらの検査は条件によっては機械に置き換えることも可能だが、精度などの条件、費用対効果などの制約により、多くが人作業に頼らざるを得ない状況が生まれていた。例えば、オムロンの工場内でも多くの外観検査工程があり、過去30年にわたり検査の自動化に取り組んできたというが「従来の技術ではいくつかの限界があり適用が難しかった」とオムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 商品事業本部 センサ事業部 第2開発部 部長の竹川肇氏は語っている。

 制約となった条件の1つが、多様な検査対象があるという点だ。FA製品を扱うオムロンの工場では多品種少量生産化が進んでおり、検査対象となる製品の種類が非常に多く、これらに対応する自動検査装置を作る負担が大きくなる問題があった。さらに良品そのものにもばらつきがあり、これらを正しく認識するのが難しい面もある。また、これらの自動検査を機能させるには調整に専門知識が必要になり、多くのエンジニアリングリソースが必要にあるという点も工場になかなか導入できない要因となっていた。

photo 官能検査技術の現状と限界(クリックで拡大)出典:オムロン

 AI技術の進展により、従来の「官能検査の限界」を突破できる可能性は見えてきたものの、今度はAIの活用で生まれる制約が、FAで要求される要件に当てはまらないという課題が生まれ、こちらもそのまま適用できないという状況が生まれていた。

 例えば「製造現場で使用するためには、高い認識精度が要求されるが、その精度を実現するためにはAI技術者が長期にわたる試行錯誤を繰り返して実現することになる。この負担やコストをどう吸収するかというのが課題となっていた。また、検査対象や条件が日々変わる中で、通常は変化ごとに再学習や再調整が必要になるが、生産効率が要求される生産現場では受け入れられないものだった。さらに製造現場では長期にわたり安定的に稼働するものが求められるがこうした信頼性をどう確保するのかというのも課題だった」と竹川氏は製造現場でのAI活用の難しさについて語っている。

photo 官能検査技術の現状と限界(クリックで拡大)出典:オムロン

人のノウハウを落とし込んで軽量化を実現したAI検査技術

 これらの課題をクリアするために開発したのが「欠陥抽出AI」である。今回は外観検査の中のさらに「キズの抽出」に特化し、従来の検査のノウハウを導入することで、学習量や計算量を抑え、既存の画像検査装置やカメラなどに組み込むことができるようにしたものだ。ハードウェアに組み込んでそのまま使える形で提供することにより、製造現場でのAI導入の課題を解決することを目指す。

 竹川氏は「技術の詳細についてはまだ話せないが、1つはキズの抽出に絞り込んだという点と学習のさせ方がポイントだ。学習面では、オムロンが保有する検査や良品と不良品の見極めなどのノウハウを生かし、全てのパターンを学習させるのではなく学習範囲を限定させるという点がポイントとなる。良品や不良品の条件や範囲を絞り込んで集中的に学習させることで、ハードウェアに大きな負担をかけることなく動くAIを作った」と語っている。

 具体的にはわずか十枚前後の画像で高い検査性能を引き出すことに成功したという。また、通常のPC環境で作動させることができるため、AIに関する専門知識を持ったエンジニアがいなくても、現場での立ち上げや調整を行える。ハードウェアに組み込む形で、同社の画像処理システム「FHシリーズ」に搭載し、2020年春に発売予定としている他「提供方法については検討中で未定だが、技術的には既に導入済みの画像検査システムに後付けで入れることも可能だ」(竹川氏)としている。

photo 欠陥抽出AIの活用事例(クリックで拡大)出典:オムロン
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