IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第3回は、現在流通しているRTOSの中で最も古くから使われている「VxWorks」を取り上げる。
今回はリアルタイムOS(RTOS)の老舗というか元祖というか、現在流通しているRTOSの中では最も古くから使われている「VxWorks」をご紹介したい。VxWorksは以前に執筆した記事でも簡単に取り上げているが、まずはその起源から見ていこう。
VxWorksの元になったのは、「VRTX(Versatile Real-Time Executive)」というRTOSである。これを開発したのはジェームス・レディ(James Ready)氏(2017年末に逝去)で、彼とコリン・ウォールズ(Colin Walls)氏が立ち上げたHunter & Readyという会社の最初の製品であった(というか、むしろVRTXを売るためにHunter & Readyを立ち上げたというべきか)。
最初は8ビットMCU向けのRTOSとして提供されたが、すぐに16/32ビットにも移植されている。ハイエンドプロセッサ向けに発表された「VRTX32」はかなり売れたようだ。このVRTXを利用したアプリケーションとして有名なものはハッブル宇宙望遠鏡や、米国のFAA(連邦航空局)が2003年に構築した「WAAS」などがある。
ちなみにHunter & Readyは、1986年にCardToolsという会社を買収して併合するに当たりReady Systemsに社名を変更したが、1994年にMentor Graphics(以下、Mentor)に買収されている。レディ氏は当初MentorのCTOを務めていたが、1999年に離職してMontaVista Softwareを設立するといった具合に、組み込みOSから離れられない人だったようだ(これは例えば「ThreadX」の開発者であるビル・ラミー(Bill Lamie)氏にもいえる話で、どうも会社をいろいろ入れ替えつつ、RTOSを作り続けるという人が妙に多い気がする)。
まぁそれはともかくとしてVxWorksの話に戻ろう。Hunter & Readyのもう1人の創業者であるウォールズ氏が2018年1月に投稿したレディ氏の追悼記事によれば、「1980年代後半に、Wind River Systems(以下、Wind River)という小さなコンサルタント会社がBSDのTCP/IPスタックをVRTXに載せ、いくつかのツールを組み合わせてVxWorks(VRTX Works)として売り出した。要するにVRTXの上に薄いAPIを被せた格好だ。ただその後、技術的な方向性に関してビジネス上での不一致があり、Wind Riverは同社のエンジニアだった(後にVP兼CTOにまでなる)ジョン・フォグリン(John Fogelin)氏が開発した新しいカーネルに置き換えた」としている。これが正しければ、初期のVxWorksは要するにVRTXそのものだったことになる。
もっともこうした話は別にVxWorksだけに限らない。Motorolaが2001年頃まで携帯電話機向けに提供した「P2K」というOSのコアはやっぱりVRTXだったという話もある。Ready SystemというかMentorとしては、ライセンス料がちゃんと支払われれば、使われ方にはあまり頓着しなかったのかもしれない。一応当初はReady Systemsのリセラーという立場であったWind Riverは、このタイミングで同社とたもとを分かつことになる。
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