知財は事業戦略の構築段階から検討せよ、新製品投入時のリスク確認も不可欠弁護士が解説!知財戦略のイロハ(2)(1/3 ページ)

本連載では知財専門家である弁護士が、知財活用を前提とした経営戦略の構築を図るモノづくり企業に向けて、選ぶべき知財戦略を基礎から解説する。今回は事業戦略構築時の知財の有用性を説明する。

» 2020年06月02日 08時00分 公開
[山本飛翔MONOist]

 連載第1回となる前回は、モノづくり企業が知財戦略に取り組む意義についてご紹介しましたが、今回からは具体的な知財戦略への取り組みを説明します。

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 今回紹介するのは事業戦略の構築期における取り組みです。具体的には(1)事業戦略構築におけるツールとしての知財の有用性、(2)ビジネスモデルの適法性確認、(3)製品名の決定の各トピックを取り上げていきます。

事業戦略構築におけるツールとしての知財の有用性

 まずは(1)事業戦略構築におけるツールとしての知財の有用性についてです。第1回で説明したように、各種知財は事業成長のための1ツールとして活用することが可能です。そのため、事業計画や事業戦略の構築後にその枠内で知財を活用するのではなく、事業計画や事業戦略の構築時に併せて知財の活用方法を検討することが望ましいといえます。

 このようにすることで、事業融資も有利に進められる可能性があります。特許庁が提唱する「中小企業知財金融促進事業」の中で採用されている「知財ビジネス評価書」をご紹介しましょう。この知財ビジネス評価書は、一時期議論された、特許権などの知的財産権を担保に融資を受ける「知財の担保化」とは異なり、知財的な観点でまとめた評価書の内容を踏まえて、事業の成長可能性や事業価値を算定し、金融機関に融資の可否を検討してもらうというものです。知財ビジネス評価書は、特許庁が知財金融促進事業の中で毎年度取り扱ってきていることもあり、地域金融機関による融資の参考情報として一般的なものになってきているものといえるでしょう*1)

*1)知財ビジネス評価書を利用した金融機関数は2014〜2018年度までの累計で214機関となっている。

 知財ビジネス評価書の作成にあたり、どのような事項を検討すべきかを把握する上では、知財ビジネス評価書の作成検討に関与している知財金融委員会が公開している「中小企業知財金融促進事業 最終取りまとめ 知財活用型事業性評価の広がりと今後の展望」から引用した以下の図表が参考になるでしょう。この図表は、平成30年度に実施された「成長ステージ別・知財ビジネス支援ケーススタディ研修」で利用されたもので、取引先企業の事業を理解する上で地域金融機関職員に求められる着眼点を、創業期、成長期、事業承継期のそれぞれの成長ステージ別に整理したものです。成長ステージごとの特徴に合わせて情報整理や課題抽出、本業支援提案を行うよう、独自の情報整理項目を提示しています。金融機関が融資の審査の中でどのような視点で知財に注目しているかが把握できるため、逆に言えば、どういった点をフォローすれば知財が融資面で役立つかをイメージするのに良い資料になると考えられます。

創業期における情報収集のフレームワークと提案検討シート。出典:知財金融委員会 創業期における情報収集のフレームワークと提案検討シート。出典:知財金融委員会
企業の成長ステージ別にどのような観点で知財に注目しているかが分かる。出典:知財金融委員会 企業の成長ステージ別にどのような観点で知財に注目しているかが分かる。出典:知財金融委員会

 図表にある各質問事項は、事業戦略の構築時に、どのように知財に関する事項を検討すべきか考える上でも参考になるでしょう。例えば、この図表では商品アイデアの独自性や競合他社との競争回避策などを論点として取り上げています。商品アイデアの独自性は、特許権などの知的財産権の取得可能性を検討するのに役立ちますし、取得見込みの知的財産権をベースにいかなる事業戦略(オープンクローズ戦略など)を構築できるかを検討するのにも役立ちます。また、競合他社との競争回避策という観点からは、せっかく良い製品ができても第三者がその製品を容易に模倣できてしまうと、自社で生み出せる利益は小さくなってしまいます。そのため、後発の競合に対する参入障壁や支配力をいかに構築するかが重要となりますが、この際、知的財産権を取得しておけば侵害行為に対する差し止めが認められる可能性が大きいことは想像に難くないでしょう。

 なお、事業戦略の構築と知財活用の検討を同時に進める際の注意点として、特許の対象となり得るものを探す「発明発掘」の作業を技術者に任せきりにしない、ということが挙げられます。技術者は、技術的な新しさに重きを置いて「発明発掘」しがちで、本来特許になり得るものを無意識のうちに排除してしまっている可能性があるためです。そのため、発明発掘は技術者だけでなく経営陣を交えて、ひとまずは技術的なハードルを無視して、事業上の目的から逆算して発掘していくのが望ましいでしょう。

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