では、今後「Part2」以降が拡充されることで、先に示したロボットのインタフェースは「OPC UA for Robotics」へと移行し共通化されていくのだろうか。その理想や意義には合理性があるとしても、実際に進む道には困難が伴うだろう。
先に紹介したように、OTネットワーク以下のインタフェースは多種多様であり、使用場面も要件もそれぞれ異なる。また、これらのインタフェースが使われるのは生産システム全体の効率や価値を決める重要な領域であり、各ロボットメーカーが利便性や性能を追求する競争領域にもなっている。このような領域では、インタフェース仕様共通化の議論が簡単にまとまるとは思われない。各ロボットメーカーが自社の競争優位をもたらすと信じるインタフェースを変えてまで、他社と共通化する手間をかけるメリットがないためである。
ロボットユーザーにとっても、慣れ親しんだ既存インタフェースからの乗り換えは負担であるため、できることが変わらないのであれば現状を維持したいと考えるのも当然である。
「OPC UA for Robotics」は、各ロボットメーカー間の競争領域を避けつつ、近未来のユーザーとメーカー双方にとって利益となる領域に的を絞って、発展していくことになるだろう。インタフェース共通化の議論は「各社がどこで競争し、どこで協調するか」という議論に他ならないからだ。
第2回の最後に、OPC UA for Roboticsの将来にも影響すると思われるニュースを紹介する。
2020年の4月2日、ドイツ工作機械工業会(VDW)とVDMAは「umati: Universal Machine Technology Interface (機械技術の共通インタフェース)」の名の元に、OPC UA規格を広く普及させるために協業する、と発表した(※3)。
(※3)プレスリリース「umati - on its way to becoming the global language of production」
目指すのは、つなげば生産を開始できる「Plug & Produce(プラグ&プロデュース)」の理想の実現である。その構成要素となる電動機、プラスチック・ゴム、マシンビジョン、金属、ロボットおよび工作機械業界が手を携え、まずは全ての機械装置の基本となるコンパニオン仕様「OPC UA for Machinery」を策定しようとしているという。今後「umati」は相互運用性を表すラベルおよびブランドとして、機械とプラントエンジニアリング部門全体で使われる。OPC Foundationとしてもこれを歓迎し、支援していく方針を示している。
もともと「umati」は、工作機械の共通インタフェース「universal machine tool interface」として登場した(※4)。このロゴを継承しつつ、機械技術の共通インタフェース「universal machine technology interface」へと昇華させようと言うのだ(図4)。
(※4)関連記事:工作機械の共通インタフェース「umati」とは何か?
工場・生産システムは、単一のロボットや工作機械で構成されるわけではない。さまざまな自動機械・装置を有機的に組み合わせることで初めて、さまざまなモノづくりに対応することができる工場・生産システムが実現できる。今回のVDWとVDMAの発表は、業界の垣根を超えたつながる工場の実現に向けたドイツの本気度を示していると言えよう。「OPC UA for Robotics」のように業界ごとに別々に策定されてきたOPC UAのコンパニオン仕様だが、その共通部分がOPC UA for Machineryとしてまとめられ、それをベースにさらに最適化されていくことになる。その結果、業界を超えた相互接続性・運用性の向上が期待できるだろう。
ここで思い出しておきたいのは「OPC UA for Robotics」の情報モデルにおいて、対象が「ロボット」ではなく「モーションデバイス」とされていた点だ。この情報モデルであれば、狭義の産業用ロボットに限らず、多くの駆動軸を有する自動機械・装置を対象とすることができる。「OPC UA for Machinery」においても、その概念が大いに役立つのではないだろうか。
「OPC UA for Robotics」は、工場ネットワークにおける産業用ロボットのインタフェースを共通化しようとするものである。しかし現状は、その対象とする範囲は非常に狭く、産業用ロボットの既存機能や既存インタフェースの多くをカバーできていない。その拡張の議論にも困難が予想されるが、その掲げる理想に向けたドイツの取り組みは、「umati」の名の元に加速している。
なお、これらの取り組みの途中経過はハノーバーメッセをはじめとするドイツの主要な展示会で見られる予定だったが、昨今の新型コロナウイルス感染症の流行に伴って、展示会は軒並み中止・延期となってしまった。一方で、このような危機において、感染拡大防止の観点からもネットワーク化や自動化の重要性が浮き彫りになっているともいえる。モノづくりの将来を考える材料として、「OPC UA for Robotics」や「umati」の動向には、引き続き注目が必要だ。
≫連載「いまさら聞けない『OPC UA for Robotics』入門」の目次
岸 泰生(きし やすお)
ベッコフオートメーション ソリューション・アプリケーション・エンジニア
名古屋大学大学院工学研究科を卒業後、産業用メカトロ機器メーカーの開発研究所に約15年間勤務し、ロボット技術や制御技術の研究開発に従事する。2018年にドイツの制御装置メーカーであるベッコフオートメーション株式会社に入社し、同社製品の応用技術を担当。同社技術を通して日本のモノづくりの生産性向上に努めている。
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