日本IBMが同社のブロックチェーン戦略について説明。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、今後も“人が動けない”ことを前提にした業務体制強化が求められているため、企業のサプライチェーンでブロックチェーンの果たす役割がより一層高まるという。
日本IBMは2020年5月18日、オンラインで会見を開き、同社のブロックチェーン戦略について説明した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、今後も“人が動けない”ことを前提にした業務体制強化が求められているため、企業のサプライチェーンでブロックチェーンの果たす役割がより一層高まるという。
日本IBM 取締役専務執行役員 事業開発&テクニカル・エキスパート本部担当の三澤智光氏は「IBMがハイブリッドクラウド戦略を加速させる中で、ブロックチェーンソリューションも新たな展開に入りつつある。他サービスと同様に、ブロックチェーンサービスも『Red Hat OpenShift』上でコンテナとして展開できるようになっており、他社のパブリッククラウドやオンプレミスと連携した開発は容易だ」と語る。また、貿易物流や食の信頼といった産業別にブロックチェーンサービスをSaaSとして商用展開するところまでブロックチェーンにまつわる事業展開も進んでいる。
加えて今後は、世界全域にCOVID-19が感染拡大したことで大きく変わった社会情勢に合わせて新たなサプライチェーンの在り方が模索されており「“ポストCOVID-19”のサプライチェーンにおいてブロックチェーンの役割が拡大することは間違いない」(三澤氏)。
IBMは、Linux Foundation傘下のオープンソースのブロックチェーンプロジェクト「Hyperledger」の活動に2015年末の発足から参加しており、同プロジェクトのフレークワーク「Hyperledger Fabric」をベースとした「IBM Blockchain Platform」を展開している。このプラットフォームを使ってブロックチェーンサービスも立ち上げるようにするとともに、顧客との共創によって開発した業界ごとのブロックチェーンをさまざまな企業が早期に利用できるようなソリューションとして展開する3段構えの戦略をとっている。
特に大きな成果が出ているのが、デンマークのマースク(Maersk)と共同開発したコンテナを使った海洋貿易物流のブロックチェーンプラットフォーム「TradeLens」だ。2018年12月から商用化され、2019年からはOcean Network Express(ONE)や井本商運など日本国内の主要貿易事業者も参加を表明している。既に累計イベント処理11億以上、累計貿易書類は900万枚以上に上るという。
食の信頼確保でもIBMのブロックチェーンが役立っている。米国ウォルマート(Walmart)との取り組みから発展した「IBM Food Trust」で、現在はフランスのカルフール(Carrefour)や、ハンバーガーチェーンに牛肉パティを納入するゴールデンステートフーズ(Golden State Foods)なども採用している。2018年10月から商用化されており、参加事業者は200社以上、登録商品数は1万7000、取引記録数は2000万以上、トレース数は75万以上。国内の小売・食品メーカーが採用を検討している他、複数のSIerがIBM Food Trustをベースに産業や企業ごとの最適なブロックチェーンソリューションを提供すべく評価を進めている。
IBMとしても、IBM Food Trustをベースにさまざまな産業に合わせたブロックチェーンプラットフォームを展開できるような汎化の取り組みとして「IBM Blockchain Transparent Supply」を用意している。第1弾はコーヒーのフェアトレード向け、第2弾は米国内におけるタイヤ販売向けだ。
さらに、製造業にも大きな関わりのあるサプライヤー調達向けに展開しているのが「Trust Your Supplier」だ。日本IBM ブロックチェーン事業部長の高田充康氏は「これまで新たなサプライヤーと取引ができるまでに4〜6週間かかっていた。Trust Your Supplierを活用すれば、サプライヤーの品質確認や評価といった作業を大幅に短縮できるので数日で取引を始められる」と語る。
Trust Your Supplierは、グローバルの大手企業がガバナンスボードに加盟し、1000社以上のサプライヤーが参加して2020年夏からサービスを開始する予定だった。しかし、COVID-19の感染拡大によって医療物資のサプライチェーンに大きな影響が出たこともあり、これら医療物資の緊急時サプライヤー調達と在庫可視化向けに「IBM RAPID Supplier Connect」の立ち上げを先行的に実施した。このサービスは2020年8月まで無償提供する計画だ。
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