前回紹介した、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応下の米国の遠隔医療サービスやモバイルヘルスの動向に続けて、今回は、日本の遠隔医療サービスやモバイルヘルスの技術が米国などと比較してどのような状況にあるかを見ていこう。
本連載は「海外医療技術トレンド」とある通り、欧米を中心とした海外における医療技術へのIT応用トレンドを紹介する連載記事である。2020年2月からは、感染拡大が国内外で大きな影響を与えている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にスポットを当て、中国や米国、欧州がどのように対応しているかについて取り上げてきた。
前回は、COVID-19対応下の米国の遠隔医療サービスやモバイルヘルスの動向を紹介した。今回は、担当編集からの要望もあったので、日本の遠隔医療サービスやモバイルヘルスの技術が米国などと比較してどのような状況にあるかを見ていきたい。
2020年4月10日、厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」(関連情報、PDF)を公表した。これは、同月7日に閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」(関連情報、PDF)を踏まえ、COVID-19が拡大し、医療機関の受診が困難になりつつあることを鑑みた時限的・特例的な対応として、電話や情報通信機器を用いた診療や服薬指導などの取り扱いについてとりまとめたものである(図1参照)。
今回の厚生労働省事務連絡は、以下のような構成になっている。
厚生労働省は、当初、電話や情報通信機器を用いた診療の対象を2度目以降の診療からとしていたが、COVID-19の拡大により対面診療のリスクが高まる状況を受けて、初診からに広げている。
前回取り上げた米国医師会(AMA)の「遠隔医療導入プレイブック」事例と同様に、日本国内でも、COVID-19緊急対応時の安全管理の観点から、伝統的な対面診療の代替手段として利用できるオンライン診療にフォーカスしている点は変わらない。ただし日本の場合、現段階では、コミュニケーション機能など、感染が収束するまでの時限的な対応に最低限必要な技術に限定されており、米国保健福祉省(HHS)の「国家医療IT調整室(ONC)21世紀治療法最終規則」および「CMS相互運用性および患者アクセス最終規則」に基づくデータ相互運用性標準化政策や、ホワイトハウスの「コロナウイルス支援・救済・経済保障(CARES)法」に基づくインセンティブ施策に匹敵するような中長期的イノベーション支援策に関しては、今後の議論に委ねられている。
参考までに、表1は、日本国内の主なオンライン診療関連医療ITスタートアップ企業事例をまとめたものである。インテグリティ・ヘルスケアは疾病管理、Welby(ウェルビー)は個人健康記録(PHR)、MRTとオプティムはモバイル/スマートフォン対応、MICIN(マイシン)はデータ分析/AI、メドピアはオンライン・コミュニティー管理、メドレーは人材採用管理と、それぞれが得意とする要素技術やノウハウをベースとしながら、オンライン診療関連ソリューションを展開している。
企業名 | ソリューション概要 | 企業URL |
---|---|---|
株式会社インテグリティ・ヘルスケア | 医療機関向けにオンライン診療システムや疾病管理システムを開発・提供 | https://www.integrity-healthcare.co.jp/ |
株式会社Welby | 医療機関向け/企業向けに新型コロナウイルス対策 Webチェック・情報共有ツールを開発・提供 | https://welby.jp/ |
MRT株式会社・株式会社オプティム | 医療機関向けにオンライン診療サービスを開発・提供 | https://www.pocketdoctor.jp/ |
株式会社MICIN | 医療機関向け/薬局向け/製薬企業・CRO向けにオンライン診療サービスを開発・提供 | https://micin.jp/ |
メドピア株式会社 | 医療機関向けオンライン診療ツールや、薬局向けオンライン服薬指導ツールを開発・提供 | https://medpeer.co.jp/ |
株式会社メドレー | 医療機関向けにオンライン診療アプリケーションを開発・提供 | https://www.medley.jp/ |
表1 日本国内のオンライン診療関連スタートアップ企業事例 出典:ヘルスケアクラウド研究会作成(2020年5月) |
米国の遠隔医療関連スタートアップ企業の場合、規制緩和策や経済インセンティブ施策の恩恵を受けられる間に、マネタイゼーションや持続可能な事業モデルを開発しながら、HHSやAMAが掲げる医療のデジタル化/IT化のグランドデザインの実現に向けて、ハーモナイズするという道筋が見えている。
日本国内でも2019年、日本医師会が「日本の医療のグランドデザイン2030」(関連情報)を発表するなど、将来に向けたグランドデザインが提示されつつあるが、その実装に関わるICTやイノベーションを担うスタートアップ企業の技術ロードマップは、COVID-19拡大の中、必ずしも定まっていないのが実情だ。
オンライン診療に直接的・間接的に関わる日本の医療機器/デジタルヘルス企業は、COVID-19向けの時限的・特例的な対応という短期的な視点ではなく、医療界全体のグランドデザインを踏まえた中長期的なライフサイクルの中で、自社製品・サービスの位置付けや方向性を再確認した上で、具体的な実装に向けた計画を策定すべきであろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.