現在、富士通の自動運航船に関する開発は、日本船舶技術研究協会(以下、船技協)の「海の画像認識システムの構築等に係る研究開発」(以下、船舶画像認識研究)へ協力する形で進めている。この取り組みは2019年からスタートしており、船舶運航において、船員の目視、レーダーやAIS(Automatic Identification System、自動船舶識別装置)で得られる外部情報に加えて、先進技術を活用した周囲状況の認識機能を構築し、精度を高めることを目指している。
船技協では、認識機能構築と精度向上のために必要な先進技術として、AI(人工知能)による画像認識技術の活用を主軸に据えている。AIによる画像認識を可能にするには教師データを蓄積して学習する必要があるが、船舶画像認識研究の取り組みでは、教師データに相当する船舶画像の蓄積方法についても検討する。船技協は、富士通が既に取り組んでいた“洋上を航行する船舶を画像認識で検出する技術”の実績を伝え聞いて、富士通に参加を打診したと野田氏は説明している。
船舶画像認識研究は、2つのフェーズに分かれて研究を進めている。第1段階のフェーズ1は2019年度に終了する予定で、教師データの基となる画像の仕様と収集方法の研究、教師データの仕様検討、画像データの収集予備実験と教師データ用画像データの試作、そして研究開発にかかる予算を概算で算定する。第2段階のフェーズ2は2020〜2021年度に実施する予定で、画像データの収集、教師データの制作を経て、画像ビッグデータ(教師データも含む)の構築を目指す。
船舶運航において周辺環境認識を実用化するには、構築した画像ビッグデータを使って画像から船舶を認識して操船に反映するシステムを開発しなければならない。しかし、船舶画像認識研究では、この領域にはタッチしない。野田氏によると、画像ビッグデータの構築は「協調領域」と呼んでおり、船舶画像認識研究に参加する企業が利用できる共通データベースとして船技協が用意し、その先の実用システムの研究開発は「競争領域」と呼んで、各企業が独自に研究開発を進めて競争によってレベルを上げていくとしている。
実用システムでは、船舶運航における見張り支援だけでなく、海岸土木工事の安全監視業務支援、航路における安全航行監視支援、港湾における船舶の入出港状況把握支援といったシステムも想定している。
船舶画像認識研究では、船技協と富士通による検討会でたたき台を用意し、それをワーキンググループのメンバーである海上技術安全研究所、日本海洋科学、カメラメーカーとしてキヤノンやEIZO、AIベンダーとしてのpluszeroで内容を詰めたのち、船舶画像認識研究に参画する関係機関と企業による委員会で方針の検討と決定を行う形式で進めている。委員会には、大学、研究機関、業界団体、船級協会、そして、国交省などの海事関連官公庁の他、民間企業として海運3社、海運コンサル1社、造船3社、舶用機器関連企業7社、商社1社の他、カメラメーカー3社、ICTベンダー8社、AIベンダー1社、その他2社が参加している(委員会参加企業にはワーキンググループの企業も含まれる)。
ワーキンググループの会合は2019年5月からすでに3回開かれ、あと2回の開催が予定されている。ここでは、これまでに画像認識による船舶認識に対する海運業界の要望の取りまとめや画像データの仕様や取得方法の検討、画像収録予備実験計画の検討を済ませている。また、委員会は2回開催されており、ワーキンググループの検討を受けて、これまでに船舶画像認識を用いたシステムの利用用途とシステム要件を立案し、画像収録予備実験計画書を策定した。
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