開発したVRシミュレーターは2種類ある。1つは、VRヘッドセットを用いるゴーグル型VRシミュレーターだ。ゴーグル型では、将来的な導入が見込まれている23.4インチクラスの大型ディスプレイを使用したUIや、HUD(ヘッドアップディスプレイ)を含めて3つのディスプレイを組み合わせたUIなどの検討や検証を、車室内空間に没入する形で行える。自動車の運転時に求められるより広い視野を再現できるように、独自に開発した広視野角のVRヘッドセットを採用している。
もう1つは、VRヘッドセットを使わず、壁面に映像を投影するオープン型VRシミュレーターである。パナソニックの高性能/高輝度プロジェクターを投影面1面当たり1台用いて高解像の映像を投影し(最大5面まで)、車室外の環境と車室内空間をシームレスに再現できる。ゴーグル型VRシミュレーターがUIの検討/検証に用いるのに対して、オープン型VRシミュレーターはインテリアやHMIなどを含めたコックピット全体のUXの検討/検証が主な用途となる。
オープン型VRシミュレーターでは、人の位置を認識することで、車両のドアを開けて車室内に入ったり、運転席から後席に移動して車室内の状態を確認したりできる。人の位置の認識は「HTC Vive」のトラッカーを用いる他、パナソニック製の4Kカメラを使って手の動きまで検知可能なモーションセンシングも利用できるようになっている。遠藤氏は「このオープン型VRシミュレーターは、今までにないものになっているだろう」と強調する。
これらVRシミュレーターは、HMIの設計開発の上流工程でできるだけ問題を洗い出して仕様を確定し、これまで開発の終盤で頻発していた仕様変更の発生を抑えることにある。VRシミュレーターを用いた実際のHMIの設計開発では、仕様変更件数の総数を約30%削減することができた。また、「従来は開発が間に合わずリリースできない機能などもあったが、VRシミュレーターで事前検証することによりリリースまでに盛り込めるようになった。そういった意味で、顧客である自動車メーカーの満足度を高める効果もある」(遠藤氏)という。
スズキとの事例では、HMI開発に用いていたオープン型VRシミュレーターを「東京モーターショー2019」の展示に活用できないかという相談があり、コンセプトカー「WAKUWAKUスイッチ」の展示に技術を提供したという。この他にも、オープン型VRシミュ―レーターの没入感の高さを活用できる事例として、キャラクターと一緒の空間にいられるサイネージや、オフィスや住宅など居室空間内のインテリアコーディネート体験などもある。
遠藤氏は「今後はドライバーのいる前席と後席という車室空間を、人と街の変化に合わせてアップデートできるようにしていきたい。従来のクルマでは、購入後に保有を続ける約10年の間はUIやUXが変わらないのが当たり前だった。VRシミュレーターを活用することで、そういったデバイス売りの考え方から脱却し、ユーザーがワクワクする製品やサービスを提供していきたい」と述べている。
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