特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

「IoTプラットフォームによるアプローチは間違い」IoTを成功に導く正しい道とは製造マネジメント インタビュー(1/2 ページ)

製造業におけるIoTへの取り組みは何が間違っていて、どういう筋道が正しいのか。産業用IoTなどのアナリストである、米国Gartner リサーチ&アドバイザリー シニアディレクターのPeter Havart-Simkin(ピーター・ハバート・シムキン)氏に「製造業IoTへの取り組み方」について話を聞いた。

» 2019年12月19日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

 製造業においてIoT(モノのインターネット)やデジタル変革の動きが活発化してから数年が経過し、世界中でさまざまな取り組みが進む中で、国内企業でも積極的な取り組みが目立つ。しかし、実質的な成果を大きく得られている企業は一部に限られており、その進捗は期待通りとはいえない状況が続く。

 製造業におけるIoTへの取り組みは何が間違っており、どういう筋道が正しいのか。産業用IoTなどのアナリストである、米国Gartner リサーチ&アドバイザリー シニアディレクターのPeter Havart-Simkin(ピーター・ハバート・シムキン)氏に「製造業IoTへの取り組み方」について話を聞いた。

全てをカバーするIoTソリューションは“神話の世界の話”

MONOist 製造業におけるIoTの進捗状況をどう見ていますか。

シムキン氏 基本的にはスローだと見ている。IoTでは大きく分けて、消費者向け、小売りなど商用、そして製造業などの産業用の3つに分けられると思うが、産業用IoTはこの3つの中で最も進んでいない。これはグローバルのどの地域で見ても同じような状況で、日本だけが特に遅れているわけではない。世界中の製造業の取り組みがスローである。

photo 米国Gartner リサーチ&アドバイザリー部門 シニアディレクターのピーター・ハバート・シムキン氏。

 製造業など産業界では、エンドtoエンド(E2E、全て)をカバーするようなIoTソリューションを期待し、そのIoTプラットフォームによる覇権争いに関心が集まったが、それは“神話の世界の話”で現実ではあり得ない。既にあるアプリケーションや必要となる新たなソリューションをコンポーネントとして組み合わせて、企業にとって必要なソリューションの形を作り上げるのがポイントである。

 この2年間で産業用IoTに関する市場でもさまざまな変化が起きている。例えば、2年前にはIoTプラットフォームが注目を集めたが、この2年の間で400以上のIoTプラットフォームが登場した。これはあまりにも多すぎる状況で、1つ1つを精査して利用するのは現実的ではない状況になっている。同じような技術で違いが判別できないものも多く、IoTプラットフォームを使うことが、産業用IoTの成果につながらない状況になってしまっている。

 こうした状況を受けて現在はあまりIoTプラットフォームは重視されなくなった。重きを置かれない状況になっている。「どういう領域で何に対して効果を発揮するのか」というアプリケーションが重要になってきている。生産現場などでも「どういうところにどのテクノロジーをどう活用してどういう成果を生み出すのか」ということが問われている。

 1つの象徴的な例が日本企業の動きでもあると見ている。それは日立製作所(以下、日立)の「Lumada」だ。LumadaはIoTプラットフォームの1つとして打ち出していたが、現在の日立は「Lumadaはスイート(製品を組み合わせてひとまとめにしたもの)である」と位置付けており、アプリケーションを前面に打ち出すように取り組み方を変えている。プラットフォーマーではなく、「デジタルツイン」や「アセットアバター」などさまざまなアプリケーションを打ち出すという方向性だ。こうした例から見ても、IoTにおいてプラットフォームとしての提案は終息しつつあるといえる。

IoTプラットフォームでのアプローチは間違い

MONOist IoTプラットフォームとしてのアプローチは間違いだったということでしょうか。

シムキン氏 明らかに間違ったアプローチだったといえる。IoTプラットフォームが正しい道だと考えて市場に参入した多くのITベンダーがうまくいかず失敗した。実際に収益が確保できず、もうかったベンダーはほとんどいなかった。そこでここ最近で多くがリセットボタンを押すことになった。

 例えば、GEは「Predix」をプラットフォームとして展開することを考えたが、自社の事業領域外でも「何でもできる」ということを訴えたために、中心となる課題解決のポイントが曖昧となり、結局うまくいかなかった。今は「アセットパフォーマンスマネジメント」に特化し「PaaS(Platform as a Service)」型から「SaaS(Software as a Service)型」へとシフトし、一定の評価を得つつある。市場全体がより課題解決に直結するアプリケーションへとシフトしているのが明らかな状況だ。

 また、もう1つ興味深い調査結果がある。産業用IoTでGartnerが行った調査では、回答者の45%は、産業用IoTプラットフォーム購入の意思決定要因として「既存の関係性や、現在活用しているテクノロジーやサービスに基づいて選んだ」と答えた。さらに2018年に行ったユーザー調査の中で「IoTを実装する場合、現在つながっているアプリケーションベンダーからIoTコンポーネントを入手するか」という項目で73%が既存のベンダーから入手すると回答している。一方で2019年のユーザー調査で「IoTプラットフォームテクノロジーをこれまで一度も仕事をしたことのないプロバイダーから購入するか」という設問に対し「する」と答えた回答者はわずかに5%だった。

 こうした状況から見るとユーザーは、IoTプラットフォームを現在付き合いのない企業からは導入するケースはまれで、付き合いのある企業から現在のソリューションに関係させる形で導入する企業が大半ということになる。いくらベンダーがIoTプラットフォームを新たに用意して提案しても、新たなビジネスチャンスにはつながっていなかったということが分かる。その意味でもIoTプラットフォームを中心とした産業用IoTへのアプローチは間違っていたといえる。

photo IoTプラットフォームの導入先についての考え方(クリックで拡大)出典:Gartner
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