欧州の保健医療機関はなぜ気候変動や環境問題に取り組むのか海外医療技術トレンド(52)(4/4 ページ)

» 2019年11月15日 14時00分 公開
[笹原英司MONOist]
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医療機器企業も環境コンプライアンス管理体制の整備が急務に

 保健医療と気候変動/環境の複合領域では、新たなイノベーションが期待される反面、従来の技術領域や業種・業界の枠を超えた法規制の新設・改変が、急ピッチで進んでいる。産業界にとっては、環境コンプライアンス管理業務の効率化・自動化も大きな課題となる。

 2018年1月18日、欧州委員会は、EUの環境法制順守を強化し、環境ガバナンスを向上させることを目的として、「環境コンプライアンス保証行動計画」(関連情報)を公表した。図5は、行動計画の目標を示している。

図5 図5 欧州委員会「環境コンプライアンス保証行動計画」の目標(クリックで拡大) 出典:European Commission「Environmental Compliance Assurance」(2018年1月18日)

 ここでは、以下の9項目が目標として掲げられている。

  1. 検査官と法執行官の力の組合せの支援
  2. 専門トレーニングの奨励
  3. 知識の拡張
  4. 廃棄物・野生生物犯罪に対する戦いの支援
  5. 過疎地域におけるコンプライアンス保証の改善
  6. 抽出廃棄物施設検査のための技術ガイドラインの提供
  7. 市民からの苦情処理の改善
  8. 衛星利用法の開発
  9. 加盟国に対する取り組み方法についてのよりよいフィードバックの提供

 そして、コンプライアンス保証の介入手段として、以下の3つを掲げている。

  • コンプライアンス・プロモーション
  • コンプライアンス・モニタリング
  • フォローアップと執行措置

 本連載第50回で触れたように、EUでは、「医療機器規則(MDR)」(2020年5月26日適用開始予定)(関連情報)や「体外診断用医療機器規則(IVDR)」(2022年5月26日適用開始予定)(関連情報)など、域内統一ルール整備に向けた対応が進んでいるが、そこに、環境法規制とのハーモナイゼーションが絡むケースも見受けられる。

 身近なところでは、2019年7月23日、欧州委員会が「単回使用医療機器 - 再処理のための安全性と稼働性能に関する要求事項」草案(関連情報)を公開している。これは、MDR施行に対応するためのガイドライン草案であると同時に、再利用による環境負荷低減という側面を持っている。

 すでに環境マネジメントシステムの国際標準規格ISO 14001:2015を取得している医療機器/デジタルヘルス関連企業は、リスクベース・アプローチの観点から、保健医療関連規制対応と気候変動/環境関連規制対応の連携・業務効率化の起点として欧州市場を捉えるとよい。前者を担う製品/サービス事業部門と後者を担うコーポレート部門との間の情報共有が必要となる。

筆者プロフィール

笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)

宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。

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